高速に入ってからしばらくは快調に飛ばしていたものの、合流場所など途中で混雑しているポイントがいくつかあったので、もっと早く出発するべきだったかと一度は後悔しかけた。しかしさすがは平日の春休み。都心に向かう数多のトラックと道を異にしてからは拍子抜けするほど空いていた。
高速を抜けて横浜市街に入ると、俺はナビに従って予め目的地に設定していた時間貸し駐車場に車を停車した。此処からだと中華街は目と鼻の先だからかなりオススメだ。ただし立地と安さは魅力的だが、滅茶苦茶狭い。車同士すれ違うだけでもビクビクする。司馬から聞いた通りだった。
エンジンを切って車を降りると、俺は大きく伸びをして身体の凝りを解した。
何はともあれ、久しぶりの横浜だ。
最後に来たのはいつだったかな。確か高校一年の校外学習以来だから、三年半くらい前か。あの時はグループ行動を強いられていたし、時間制限もあったからゆっくり見物してる暇なんてなかった。そういえば司馬と親しくなったのは、校外学習in横浜で同じグループになってからだったな――
「深也、ほら行こっ」
俺が親友との脳内回顧録を紐解いていると、いつの間にか車を降りて目の前に移動していた望が俺の手を取って言った。屈託のない笑顔はまるで満開のひまわりだった。まだ三月だけど。
それから俺たちは雑貨店を冷やかしたり、派手な外装の飲食店に唖然としたりしながら、一頻り中華街を練り歩いた後、望の所望を受けて某中華レストランで昼食を取ることにした。
何でもこの店は昔ながらの調理法とアットホームな雰囲気が売りの有名な老舗らしく、洒落たレストランというよりは年季の入った食堂とでも表現した方がしっくりくるかな。とは言え、ちょうど昼時であることを考慮しても広くない店内はほぼ満席で、その人気は今でも衰えを知らないようだ。
「このお店、元々常連さんの口コミから評判になったんだって」
そのように説明してくれた望は、席に着くなり楽しそうにメニューを開いた。
――が、此処でこのお店における唯一の欠点に気付かされる羽目になった。料理が出てくるのが非常に遅かったのだ。混雑する時間帯だから仕方がないとは言え、あまりに遅い。
「ねぇ、深也。この後どうする?」
メニューを眺めるのにもさすがに飽きたのか、望は退屈そうな声で聞いてきた。
「そうだなぁ」
俺は店内を忙しなく動き回る店員さんから視線を外し、望と目を合わせた。
「山下公園を散歩して、その後はマリンタワーにでも寄ってみるか」
「ランドマークタワーじゃなくて?」
「そこを敢えてマリンタワーなんだよ。まぁそっちにも行ってもいいけどさ」
俺の返答に対し望は眉を下げ、そういうもんなのかなぁ、と小声で呟いた。
「大変お待たせ致しました!」
そこに爽やかなスポーツマン風青年店員が、両手に待望の料理を持って現れた。
「わぁ、すっごく美味しそうっ」
テーブルに置かれた料理を目にすると、望は急に元気を取り戻した。花より団子か、望。
腹の虫を満足させると俺たちは揃って店を出た。時折通り抜けていく冷たい風が、食後の火照った体にやけに心地良く感じた。山下公園に向かって歩いている途中、望がぽつりともらす。
「五目炒飯と麻婆豆腐セット、もう一回食べたいなぁ」
いや、今食ったばっかじゃないか。そんなに美味かったのか?
「うんっ。あれは世界三大珍味に加えてもいいくらいの味だったよ?」
いや、ちょっとよくわからないです。まぁ喜んでもらえたんなら良かったけどな。
今度は俺の方から望の手を取り、ぎゅっと握った。小さいけど確かな温もりを感じられる望の手に触れていると、自然に顔の筋肉に締まりがなくなるから困る。それを悟られたからか、望が何か言いたそうな上目遣いを寄越してきた。仕様だから仕方がないんだ。そういうことにしといてくれ。
赤レンガを横目に山下公園の敷地に入り、ちょうど空いていたベンチに二人で腰掛けた。
遠くで船の汽笛の音が聞こえる。潮の香りが鼻腔を優しく撫でる。俺は海を見ながら静かに深呼吸をした。時間の流れが緩やかになったかのような錯覚を起こしそうになる。その時だった。
「深也とずっと、こうしていられたらいいのに」
望がぽつりとそんな風に言った。俺は海の彼方に飛ばしていた目を戻し、反射的に同調の台詞を口にしかけた。だが、なぜか寂しげに微笑む望の顔がそこにあって、俺は言葉を失った。
「なーんてねっ。深也、何深刻な顔してるの?」
俺の顔を見つめていた望は唐突に吹き出した。しかし俺は笑い返すことが出来なかった――