消えた教室

〜第1幕 第3の教室〜

〜登場人物〜
・今井 進(いまい すすむ)
某中学校2年1組の生徒。第三の教室の噂を聞きつけ興味を持つ。
・高本 大(たかもと まさる)
今井の同級生。知的好奇心が旺盛でお調子者。
・渡辺教諭(わたなべ−)
今井、高本の担任。父親も同じ学校の教師だったらしい。


 聞き慣れたチャイムの音が鳴り、生徒の挨拶する声が響く。
 何事もない教室、いつものホームルーム。変哲のない生徒たち、教師たち。そこには見慣れた学校と何ら変わりの無い生活があるだけだった。
 そう、今日までは。

――回想。昨日の放課後、2年1組の教室――

「なぁ。明後日で学校も終わりだよな。春休みどっか遊びに行くか?」
 こう話しかけてきたのは前の席に座っている高本大作。1年の時から同じクラスで、クラス随一のお調子者だ。
 もうすぐ春休みだから、どこか浮かれて見えた。とは言えそれは高本に限ったことではなく、クラス全体がいつになく浮き足立っているように感じた。
「そうだな。春休みは宿題も出ないし、どっか遊びに行こうか」
 僕はもうすぐ今年度も終わりだな、なんてちょっとしみじみとした切ないような感情に浸っていたんだけど。
 その時、ふといつか噂に聞いた話を思い出した。口に出したのはほんの出来心というか、特に意味らしい意味はなかった。
「そういえばさ。いつか噂に聞いたんだけど、僕たちの学年って1組と隣の2組だけで、凄く人数が少ないじゃん」
「あぁ。昔はもっと人が多かったらしいけど、それが?」
 僕が急に話題を変えたからか、高本はちょっと変な顔をしていたけど、知的好奇心が勝ったのか話に乗ってきた。 
「でさ。隣の2組の教室の横に3組って呼ばれる教室があったらしいんだ」
「え、マジで? それは聞いたことないなぁ。だってその3組って、今ないよな。どういうこと? てか今2組の横には非常階段があるだけじゃん」
 眉を寄せながら話す高本の指摘通り、現在の2組の横には建てつけの悪い非常階段があるだけだった。
「それはよくわからないんだけどさ。明日で学校も終わるし、ちょっと調べてみないか? 飽きたらやめちゃえばいいんだし」
「それもそうだな。確かにちょっと気になるし、いっちょ調べてみるか。しかし調べるって言っても、どうやって調べりゃいいんだ?」
「たぶん前からこの学校に勤めてる先生なら、噂くらい聞いたことがあるんじゃないかな。もしかしたら何か面白い話を聞けるかもしれないし」
「なるほど。そういえば渡辺センセはお父さんもこの学校のセンセだったって聞いたことがあるぜ。渡辺センセに聞いてみるか?」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ明日の放課後、渡辺先生に聞いてみよう」
 二人で熱中して話し込んでいる間に、いつの間にか放課後の教室は夕焼けに染まり始めていた。残っている生徒は僕たちだけだ。
「よしっ。そうと決まればそろそろ帰ろうぜ。腹も減ってきたしな」
 高本は教室のドアを指差しながら、ほとんど何も入っていない学校指定の鞄を持ち上げた。今日も教科書は机の中に置き去りらしい。
 僕も鞄を肩に掛けて立ち上がる。そのまま二人で教室を出た。
 僕たちは何も考えていなかった。まさかあんなことになるなんて――
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