消えた教室

〜第2幕 地下への階段〜

「さて。昨日言った通り、今日は例の教室について情報を集めるとすっかっ」
 翌日の放課後。一日の授業を終えると高本は早速、好奇心に満ちた目で僕にアイコンタクトを送ってきた。
「あぁ、勤続の長い先生に話を聞きに行くんだったね。じゃあ行こう」

「――というわけなんですけど。先生、何か知りませんか?」
 二人で職員室に行き、担任の渡辺教諭に幻の教室について尋ねてみた。
「珍しく何をしに来たのかと思えば…学校の七不思議でも探してるのかい?」
 渡辺教諭は苦笑いを浮かべ、手元の書類から顔を上げた。
「まぁ、何事にも興味を持つ心は大事だな。えっと、僕の父が教えてくれたことがあるんだが、十数年前まで確かに各学年に3組が存在していたらしい」
 右斜め上の空間を見つめ、渡辺教諭は思い出すように話し始めた。
「ところがある年、3組の生徒が教室で首を吊ったらしいよ。いじめに遭っていたみたいだねぇ、可哀想に…。それで翌年からうちに来る生徒が減ってしまったものだから、3組は必要がなくなって教室も取り壊しになってしまったそうだ。どうだい、これで疑問は解消されたかい?」
「そうだったんですか。そんなことがあったんですね、初めて知りました」
 渡辺教諭から話を聞き終えた二人はお礼を言って職員室を後にした。

「なんかあっさり謎の3組の真相が分かっちゃったな」
 高本は拍子抜けした顔で、僕を振り返って言った。
「いじめに遭って亡くなった人の話が原因で、他の学校に進学する生徒が増えたから、3組の教室がいらなくなったってことみたいだね。うーん…とりあえず非常階段に行ってみようか」
「おっし。どうせなら3組の痕跡でも探してみようぜ」
 僕の提案に高本はあっさり賛成し、さっさと非常階段に向かって行った。
 廊下と非常階段を仕切る錆びた鉄の扉を開けると、鼻腔を突くような臭いが立ち込めていた。ずっと開けられていなかったせいか、埃が凄い。
「うげっ、何だこの臭い…ったく、誰か掃除しろよなぁ」
 鼻をつまみ、眉間に皺を寄せながら高本が愚痴をこぼす。
「こんなところに本当に3組の痕跡なんかあんのか?」
「うーん…随分使われていないみたいだね」
 僕はそう言いながら非常階段を観察していた。
「とりあえず降りてみようか?」
 何気なくそう言ってみるまでもなく、高本は既に階段に足を伸ばしていた。
 僕たちの教室がある二階から一階に降りてみて、一つ発見があった。
 本来ならば非常階段は非常時に上の階から一階に降り、外に出るためのものだ。ところがこの非常階段は一階に降りても、まだ階下へと続く階段が存在していたのだ。
 先を歩いていた高本が僕を振り返り、目で相談してきた。――行くか?
 ――行ってみよう。僕も目で意思を伝えると、高本は一つ頷いて再び足を動かし始めた。一階に降りてきた時とは違い、緊張感が僕たちを包む。
 まさか非常階段に地下へ続く階段があったなんて、思いもしなかった。

 地下への階段を降りきると、そこにあったのは倉庫らしい小さな建物、というか部屋が一つ。そしてもちろん、その部屋に入るためのドアが目の前に立ちはだかっていた。
「暗くてよく見えないが…どうする。入ってみるか?」
 今度は口に出して、高本が相談してきた。
 こんなことなら懐中電灯を用意してくればよかったけど、想定外だったから当然持っていない。けど、ここまできて引き返すなんて面白くない。
 高本に代わってドアの前に立った僕は、ちょっとだけ中を確認するつもりで、何気なく――開かないものだと思って――ドアの取っ手に力を込めた。
すると見た目とは裏腹に、そのドアはいとも簡単に真っ黒な口を開けた。
 それが魔の入り口だとは、僕たちは到底知る由もなかった――
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