消えた教室

〜最終幕 消えた生徒〜

――倉庫らしき部屋の中。非常階段より酷い埃やカビの臭いが立ち込めており、汚らしい小屋のようだが、暗くて中の様子ははっきりわからない。
「なんかくせぇし、湿っぽい部屋だな…。明かりはないのかね」
 高本が独り言のように呟く。高本が言うまでもなく、僕は明かりを点けるスイッチがないか手探りで探しているけど、こんな忘れ去られた地下倉庫に明かりが灯るとはとても思えなかった。
 まぁ別に変わった倉庫ってだけで、特に変わった様子はなさそうだけど――
「ねぇ、君たちも同じなの? あの子たちのように…」
 その時、不意に背後から声が聞こえてきたような気がした。
「え、何だ? 今井、お前今なんか喋ったか?」
「それはこっちの台詞だよ」
 暗闇の中で高本が黙り込むのがわかった。そしてそれは僕も同じだった。
 何処からともなく聞こえてきた謎の声…言うまでなく僕らではない。となると、それはこの部屋の中に第三者がいるということを意味している。
「なぁ。もう帰らないか? なんかヤバいような気がするぞ」
 背後で高本が呟いた。語尾が震えている気がしたのは気のせいだろうか。

 しかしその直後、ドアの方から物音が聞こえた。擬声で表現するとしたら、『ギィー……ガチャン。カチッ……』といったところだろうか。
「なっ。そんなバカな、開かねぇぞっ。カギなんか掛かってなかったのに…」
 高本が慌ててドアに駆け寄り、取っ手を握ったがびくともしなかった。押しても引いても開かない。どういうわけかカギが掛かってしまったらしい。
「高本、気のせいかな…なんかお前の横に黒い人影が立ってないか?」
 暗闇に目が慣れてくるにつれ、高本の隣に僕たちと同じくらいの背丈の黒い人影が立っているような気がした。胸の鼓動がどんどん速まっていく。
「まさか、そんなことがあ――」
「やっぱり君たちも同じなんだね。あの子たちのように…」
 高本の声を遮るように、また例の声が闇に響き、僕たちは押し黙った。いよいよ背筋が冷たくなってきた。無意識に足がガクガクと震え始める。
「あ、あの子たちって…誰だよ、誰なんだよっ」
 高本が声を荒げて叫んだ。刹那、僕の中に一つの予感が通り過ぎた。
 同時に黒い人影が徐に、懐から半月状に曲がった刃がついた長い棒――まるで死神が使うような鎌――を取り出し、こちらに向けるのが見えた。
「僕はあの子たちを絶対に許さない。僕を此処に閉じ込めて笑いものにしたあいつらを…僕を自殺に追い遣ったあいつらを…お前たちを 殺 す 」


――翌日。2年1組、朝のホームルーム。
「えーと。今井と高本は欠席か? 春休みは明日からなんだけどなぁ」
 渡辺教諭は独り言のようにそう呟いた後、修了式の段取りを話し始めた。
 その後、今井進と高本大を見かけた者は一人もいなかった。
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