〜番外編 未来〜
―――たった今、永峰は深海宛の手紙をポストに投函した。行く当てもない。することもない。
永峰は近所にある、川沿いの土手に行ってみることにした。中学時代からの、黄昏スポットだった。
ゆっくりと歩を進め、数分。着いた土手。此処だけは、あの時から何も変わってはいなかった。
土手の角度と平行に、ごろんと横になる。微かに潮と草の香りが、鼻腔に届いた気がした。
目を細めて空を見上げると、卒業式の時と同じように、何処までも続きそうな青い空。
心地良いそよ風と、暖かい日の光は、確実に春を感じさせた。草木は喜んで、花を咲かせるだろう。
だが、俺は――俺の心とは真逆な天気。草木たちとは真逆の、孤独で悲しいだけの傷ついた気持ち。
永峰は独り自嘲した。誰も俺を救っちゃくれない。此処で人生を閉じても、別にいいか――
「永峰君?」
そんなことを考え始めた時だった。唐突に、永峰に話しかけてくる者がいた。
いきなり声をかけられたため、驚いて思わず土手から滑り落ちる。
ジーパンが汚れた――いや、そんなことより、一体誰がこんなところに?
ようやく体勢を立て直し、振り向いた先にいたのは、変わらぬ笑みを称えた月野だった。
「月野・・・何してんだ、こんなところで」
「それはこっちの台詞よ。昼間からこんなところで横になってるなんて、誰かと思った」
春休みだからと言って、月野は怠けていないのだろう。彼女の目が、それを物語っていた。
俺は今の自分を、誰かに見られるのが嫌だった。さっさと帰るべきだったのかもしれない。
「俺は・・・なんでもない。今から帰るところだ。じゃあ、元気で」
「ちょっと、待ちなさいよ。せっかく久しぶりに会ったのに、それは酷いんじゃない?」
月野の言う通りかもしれなかった。普段の俺なら、気の利いたジョークの1つでも言えただろう。
だが、今はそんな心境ではなかった。月野の明るさに付き合える自信も、到底なかった。
「近くに良い喫茶店が出来たんだって。これから一緒に行こうよ。奢っちゃうから」
「いや・・・今はそういう気分じゃないんだ、悪いけど」
ぶっきら棒にそう言い、立ち去ろうとした俺の手を、いきなり月野が掴んできた。
「ダメだよ・・・そんな顔した永峰君、放っておけないよ・・・」
俺は、頭をハンマーか何かでぶっ叩かれた気がした。月野が見せた表情は、とても儚かった。
俺は大切な何かを、忘れていたのかもしれない。俺を心配してくれる、誰かがいることに。
「ほら、行こう」
途端に笑顔に戻り、俺を引っ張っていく月野。もう断りの言葉を言う気には、なれなかった。
結局俺は、月野に全てを話した。話さざるを得なかったし、本当は誰かに聞いてもらいたかった。
月野は話を聞き終えて、一言だけ言った。余計なことは言わない。それが彼女の優しさなのだろう。
「神はその人に、背負いきれない重荷を与えないって、言うじゃない。永峰君なら、絶対に大丈夫」
「うん・・・ありがとう。話を聞いてもらったら、何だか少しすっきりしたような気がするよ」
「ううん、気にしないで。あたしは、永峰君に笑っていてほしかっただけだから」
月野の微笑みが眩しく感じられた。彼女の笑顔を見ていると、自然に俺も笑顔になっていく。
永峰にとって、月野がとても大切な存在になっていく日は、そう遠くなかった―――
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