メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第17章 Reflection〜


 織姫と彦星に同情するわけでもないが、なぜか毎年天候に恵まれない七夕も過ぎ、夏休みも間近に迫った七月の最終週。俺たちの大学は前期末試験期間に入っていた。
 大学の試験は最後の授業日をテストに充てる授業内試験と、授業が終わって試験期間に行われるものと二種類ある。俺たちの大学、少なくとも俺の学部ではその比率はほぼ半々で、対策を迫られるこっちとしてはどちらかに比重が傾くよりは分かれてくれた方が助かる。ちなみにテストの代わりにレポートを課す講義もあるのだが、これはこれで結構面倒くさく、七月の忙しさは半端なかった。
 今日は俺の履修している講義中、最後となるテストの日だった。今日が終われば九月半ばまで続く待ちに待った夏休みが始まるわけで、その喜びは……分かるよな?
「明日から夏休みだねっ」
 席を一つ空けて隣に座る望が話しかけてきた。テストの時は席を一つ空けなければならない。
 そして最後のテスト科目は望と同じ科目だった。だからこうやってすぐ近くの席に座っている。
「うん、やっと休みだな」
 一昨年は司馬たちと遊園地に行ったんだっけ。去年は受験でそれどころじゃなかったからなぁ。今年の夏は思いっきり楽しみたいもんだが、さて何処に行こうかね?
「二人で出掛けるのも良いけど、祝賀会の時みたいにまた皆で集まりたいね。近況も聞きたいしっ」
 望はシャーペンの芯を確認しながら、抑揚豊かに話してくる。
 祝賀会か。そういえば司馬や初音さんとは春休み以来会ってないな。桜木と九条さんの飛び入り参加には驚いたもんだが、確かに久しぶりにワイワイやるのも悪くない。
 そんな風に思いながら、俺は一週間前にあった出来事を思い出していた。

 一週間前、その日の講義を終えた俺はさっさと帰路に着こうと廊下を歩いていた。すると前方からどっかで見たことのある奴が歩いてくるなと思ってよく見たら桜木祐一で、スルーを決めかけて以前奴が望を助けてくれたことを思い出した。むむ……仕方がない、一応礼を言っとくか。
「……おい」
 と、思ったら奴の方が無視して通り過ぎようとしたので、俺はムッとして呼び止めた。
「……」
 桜木は無言のまま気だるそうに振り返る。なんか礼を言う気が物凄く失せるわけですが。
「……この間は望を助けてくれて、どうも」
 すると桜木は少し意外そうに眉を持ち上げ、自分の進行方向に身体を戻しながら
「あぁ。彼女が困っていたようだから助太刀しただけだ。別にあんたのためじゃない」
 と、静かだが強い口調で言ってきた。そーですか、そりゃどうも。てかそこは即答かよ。
「ただまぁ……彼女に対するあんたの直向きな気持ちは、ちょっとは見習うべきかもな」
 桜木は自嘲気味な口調でそれだけ言い残し、俺の言葉を待つことなく立ち去った。
 何だろうね、この気分。あいつはあいつなりに俺のことを認めてるってことなのかな? あいつからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。てかツンデレか?

「……んや、深也っ」
 おっと、うっかり回想モードに入ってたぜ。で、どうしたんだ望。
「どうしたんだじゃないよっ。試験監督の人が入ってきたよ?」
 げげっ。マジか。最後に無駄な悪足掻きをするつもりだったのに。
 急いで机の上を片付けながら前を見ると、確かに試験監督が問題用紙を確認していた。
「えー、それでは試験開始五分前になりましたので、問題用紙を配布したいと思います。必要のないもの、携帯電話は電源を切って鞄の中にしまってください」
 そういえば携帯の電源も切ってなかった。ズボンの左ポケットから携帯を取り出し、電源を切ろうとして一件の新着メールが入っていることに気が付いた。
 ん? 司馬からか。何の用だろう。って、ヤバいヤバい、問題を配り始めてるじゃないかっ。
 俺は慌てて携帯の電源を切って鞄にしまった。それを見ていた望がクスクス笑っていた――


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