連日の猛暑日が当たり前になりつつある八月の中旬。世間一般の大学生は遂に待ちに待った夏休みに入っていた。俺たちも例外ではなく、既に約二週間が経過している。しかし暑い。本当に地球に氷河期なんてあったのかと疑いたくなるような茹だる暑さが続いており、俺は早くも夏バテ気味である。
「夢原君、大丈夫? もしかして夏バテとか?」
「あー、いえ、ちょっと寝不足なだけです。大丈夫ですよ」
鋭い。さすがは九条さんだ。きっと俺の釈明など赤子の手を捻るくらいのレベルだろう。
「遠足前の小学生だな」
ムカッ。今の今まで黙っていたくせに、一言口を開けば腹の立つことばかり言いやがる。バックミラー越しに睨んでやったが、当の桜木は表情一つ変えずに前を見ていた。
「深也は朝に弱いもんね」
隣で楽しげに窓の外の景色を見ていた望が俺を振り返る。図星だ、しかも体力もない。てかこのクソ暑いのにこんな朝っぱらから外出するなんて、俺にとっては拷問だぜ。
「別に帰ってもらってもいいが」
「余計なこと言わないのっ。ごめんね、これでもこいつ機嫌良い方なの。口数多いでしょ?」
桜木の小憎らしい茶々をすかさず取り成す九条さん。九条さんも大変ですね。大丈夫です、俺は気にしてません。てかこれで機嫌がいいんですか? よく分かりませんね。
「ぶっきら棒だから分かりにくいけど、あたしは長い付き合いだからさ。大目に見てやってね」
九条さんの頼みとあらば喜んで受領しますよ。俺もつまんないことで喧嘩したくないし。
さて。俺は望とともに、桜木の愛車である黒のスカイラインの後部座席に座っている。もちろん運転は持ち主の桜木で、助手席には九条さんもいる。現在湘南の海岸を目指して東京から南下しているところである。なぜこのような状況にあるのか、その経緯を説明しなければなるまい。
理由は簡単だ。七月の最終週、前期末試験期間中に入った司馬からの一通のメールである。試験を終えて確認してみたところ、そこには次のように書かれていた。
『やぁ、久しぶり。大学生活満喫してるかい? ところで夏季休暇中、近況報告も兼ねてまた皆で集まらないか? 実は俺の親戚に湘南で海の家を経営してる人がいるから、そこの一部を貸し切ってバーベキューでもしようかなって思ってるんだ。八月中旬辺り、空けておいてくれ。それじゃ』
……何というか、相変わらず司馬の人脈には舌を巻かざるを得ない。今度は海の家ときたか。まぁそんなわけで、およそ半年振りに妙な縁のある八人が一堂に会することとなった。
ちなみに交通手段は司馬と桜木の車二台で、免許を持ってるメンバーのうち車を出せるのがこの二人だったのである。そしてなぜこの振り分けになったのかというと、実質祝賀会のみの付き合いである桜木&九条さんと五十嵐&五月を同乗させるのも気まずいだろうという司馬の配慮だ。
個人的には桜木の車に同乗するのは五十嵐たち以上に気まずい自信がある。というか、あの二人ならあんまり気まずいとか感じないような気がするんだけどな。
ともかく以上の経緯で集合することになり、夏休みの早朝にもかかわらず俺と望は揃って大学の最寄り駅までの通学を余儀なくされた。俺たちを拾ってくれる桜木は俺たちの家を知らないわけで、場所がわかりやすい大学の近くでの待機を促してきたのは当然といえば当然なのだが、何だかなぁ。
「あ、見てみて。海が見えてきたよっ」
回想モードだった俺を現実に戻したのは、いつにも増して興奮気味な望の声だった――