メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第20章 Sea and BBQ(3/3)〜


 大量に用意されていたはずの食材も一時間足らずで八人の腹の中である。
 食事を終えて一息ついた後、使用したBBQセット等々を洗ってお返しした。司馬のおじさんには大いに感謝させていただく次第だが、近頃の不況の中で経営状況はどうなんだろうか。
 さて。腹ごしらえも済むと、もうあとは泳ぐしかない空気が漂っている。ジリジリと照り付ける太陽がさっさと海の中に入っちまえ、と促しているような気さえしてくるぜ。
 五十嵐と五月はBBQをしている時も揃って水着姿のままだったし、薄いシャツを羽織っていた司馬と初音さんもそれを脱ぎ捨てて軽く身体を解している。桜木はキザな感じでシャツを砂上に放り、割れた腹筋を見せ付けていやがった。周りの女性から黄色い歓声が上がっているのが余計苛立つ。
 ところで、実は俺はある大きな懸念事項を抱えていた。ここまで来たら白状するが、俺はカナヅチなのだ。そこ、笑うなっ。小学校低学年の頃にプールで溺れかけて以来トラウマとなって久しい。まぁ一応海パンは準備してきたわけだが、願わくば砂浜でビーチバレーにでも明け暮れていたい。
 どうしたものかとこの期に及んで対策を講じていると、望と九条さんが現れた。九条さんは着替えを済ませてきたようで、アップにした髪と艶やかな紫のビキニが何とも言えない。隣に望がいなかったらガン見していたかもしれん。ていうか少々露出度が高すぎやしませんかね、九条さん?
 一方で望は白のワンピースタイプの水着を着てはいるが、未だに上に水色のシャツを羽織っていた。まだ泳ぐつもりはないのかな、と何となく考えていると、
「夢原君、愛しの彼女に見惚れてたでしょ?」
 などと九条さんがからかってきた。ちょっ、勘弁してくださいよっ。
「あっ。私喉が渇いたから、飲み物買って来るねっ」
 すると望はあからさまに慌てたようにそう言って、走って行ってしまった。
「望ちゃん、ほんと可愛いわね。すぐ照れちゃうし、何か妹みたい」
 確かに九条さんはお姉さんって感じがしますね。同い年とは思えませんよ。
「そう? ありがとっ。でもほんとにすごくいい子よね。嘘とかつけないタイプだわ。あたしにはお見通しなんだなー。だから夢原君、絶対に彼女を泣かせちゃダメだぞ?」
 は、はぁ。もちろん俺の行動は全てあいつの笑顔のためと言ってもいいくらいですよ。
「まぁ祐一じゃないんだし、夢原君なら大丈夫かな? じゃ、あたしもちょっと泳いでくるよっ」
 そう言い残し、九条さんは身を翻して海に向かった。うぅむ、男前だ。見た目は物凄く女性らしいのに。しかし今日の九条さんはやけに望に感情移入してたな。何かあったのかな。

 望は十分程度で戻ってきた。既に残りのメンバーは絶賛遊泳中で、俺はと言えば日向に一人で突っ立っているのも暑くてバカらしいので、日陰に避難していた。
「はい、深也」
 望の手にはサイダーが握られている。そういえば最近飲んでないな。で、なぜ俺に?
「実はさっき飲んだばかりだから、そんなに喉渇いてなかったんだ」
 まぁさっき飯と一緒に飲み物も飲んだしな。だから一本しか買わなかったのか?
「深也と一緒に飲もうと思って」
 ……え?
「え? じゃなくて、二人で飲むのっ」
 ……あぁ、なるほど。不意打ちでそんな照れた顔で言われると反応に困るからやめてくれ。
「と、ところで望は泳がないのか?」
 俺は一気に早鐘を打ち始めた鼓動を悟られまいと話題を変えた。くそ、どもったぜェ……。
「あー……実は私、今ちょっと泳げないの。だから深也とここにいようかなって」
 望は俺の隣に腰を下ろしながら、少し考えるように言い淀んでから口を開いた。
「泳げない? 何だ、どっか具合でも悪いのか?」
「もう、恥ずかしいから言わせないでよっ。女の子は色々あるのっ」
 え? あっ、あぁ、悪い。そうなのか。そりゃあ、何て言うか、タイミングが悪かったな。
「いいよ、私もそんなに泳ぐの得意じゃないし」
 それきり望はきまりが悪そうに黙ってしまった。
 何だ、何か様子がおかしいな。待てよ、さっき九条さんが変なことを言ってたよな? あたしにはお見通し、とかなんとか。もしかして望の奴、本当は泳げるんじゃないか? あいつは俺が泳げないことを知ってるはずだから、俺に気を遣って自分も今日は泳ぐのをやめようとしてる、とか。
 いや、まさかな。九条さんが俺のカナヅチまで看破してるわけないし、いくら九条さんが慧眼の持ち主だとしても、そこまで見通してるわけないよな。……たぶん。
「ねぇ。温くなったらおいしくないよ?」
 望が伏し目がちに声をかけてきた。
「だな。……よっと。ほら、先に飲んでいいぞ」
 俺はサイダーの栓を抜いて望に渡した。
「うんっ」
 望が飛び切りの笑顔を見せてくれた。おさまりかけていた俺の鼓動が再び早鐘を打ち始めた――


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