大学生活が始まって八ヶ月以上が過ぎ、十二月も残すところ半月余りだ。
先月は例年に比べて暖かい日が多く、清々しい秋晴れが続いていたのだが、今月に入った途端にすっきりしない天気が増えていた。今日も朝から冷たい雨がしとしとと降り続いており、季節を一ヶ月ほど飛ばしているのではないかと感じる。冬将軍が気合を入れるにはまだ早すぎるだろう。
さて。現在は四限目、東洋史の真っ最中である。この授業は年明けの授業がない。年明けの授業がセンター試験の会場準備日と重なっていて、生徒は休みなのだ。ということはこの授業に関しては年内で終わるわけで、次回がラストである。そしてこの授業は授業内試験の形を取っていた。
つまり、早い話が今日の曜日に当たっている授業は試験一週間前ってことだ。そういった事情で仕事量が増えているのか、黒板の前を右往左往している還暦前後であろう教授の喋るスピードがいつもの二割増しに思える。師走ってのはあながち間違いでもないらしい。どうでもいいけど。
東洋史というより中国の考古学史でしかない話は退屈すぎた。残念ながら俺の知的好奇心のカテゴリーには入っていない。こういう時は真面目な生徒を演じつつ、別のことを考えるに限る。
そうそう。先月の音楽祭だが、結論から言ってしまうと初音さん率いる演奏だけでなく無駄に外面までパーフェクトな期間限定バンドは惜しくも優勝を逃したものの、見事に準優勝を果たした。
ちなみに優勝は一つ年上の巡音さんという方で、こちらの女性も完璧な歌唱力を持っていた。会場のほぼ全ての人々をスタンディングオベーションさせていたし、中には感動でマジ泣きしている人もいて、いやはや俺たち凡人には到底太刀打ちできないレベルだったね。あれは次元が違った。
もちろん初音さんだって負けてはいなかったと思うし、準優勝でも非常に名誉ある賞なのは間違いない。天使の歌声と言っても過言ではなく、あんな素晴らしい美声の持ち主が友人にいるってだけでも鼻が高いってなもんだ。来年こそ優勝を勝ち取れるであろうことを俺は全く疑っていない。
で、司馬がどうしてあそこまでいつになく焦燥感を滲ませていたのかと言えば、あいつ自身も初音さん率いる以下略バンドのメンバーだったからである。そんなことは本人を始め周囲の誰も言ってなかったから、あいつが舞台に登場した時は大いに驚かされた。相変わらず言葉の足りない奴だ。
結果は先に言った通りだが、友人目線とは言え、司馬のギターも――後で話を聞いたら夏休みからやり始めたとか言ってた。よく三ヶ月足らずであそこまで上達したもんだ――九条さんのピアノも、桜木のドラムもぴったり息があっていて、非の打ち所がないほど初音さんの歌声と調和していた。
望も感動のあまり、声帯がやられたのかってほどしばらく声が出せなくなってたしな。
と、その時の望の様子を回想しているうちに、俺は重要な案件の存在を思い出した。
八日後の来週二十三日は望の誕生日なのだ。誕生日プレゼントを用意しなければならないし、デートの約束を取り付けなければならない。幸いにも大学の登校は二十二日までで、二十三日からは短い冬休みが幕を開ける。まぁ望の予定はたぶん大丈夫だとは思うが、ちょっと見栄を張っていいところで食事をしようと思ったら、時期が時期だけに予約が必要になるんじゃないだろうか。
ともかくこの土日で何とかしなければならない。誕生日プレゼントは何がいいだろう。どうも女の子相手には何を贈ればいいのか全く想像がつかん。去年は何をあげたんだったかな――
などと考えていたのが悪かったのだろう。いつしか教授の退屈な長話の議題は来週の授業内試験のことに移っており、黒板に重要ポイントらしき内容が板書されていた。慌てて書き写そうとシャーペンを持ち直した直後、教授はあっさりとそれを消し去った。ああ、人生とは無常だ……。
出席点が出来る限り評価に影響してくれることを祈っているのは俺だけではないと思いたい――