メモリアルリミット 〜Side memories〜

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〜第1章 二人の馴初め〜  【五月side】


 五月もすっかり下旬に入っていた。GWムードも過ぎてしまえば何処へやら、ね。最近は初夏というよりむしろ本格的に夏らしくなってきて、梅雨の気配は全く感じない。
 今日は透が免許を取ってから初めてのデートだった。せっかくだからマイカー(と言っても透の所有物じゃない)で迎えに行くよ、なんて調子こいてたけど大丈夫かしら。
 何でもかんでもすぐ調子に乗るのは、あいつの悪い癖だ。確かに透のことは好きだし、いいところもたくさんあるけど、だからと言って看過すると余計に調子に乗るから、あたしは鉄拳制裁か肘内の刑を時と場所と場合に応じて、瞬時に判断し実行している。
 それでもたまに「もっと殴ってえええええ」とか言ってくるから最悪にキモい。本当に透の何処を好きになったのか、自分でも分からなくなる時があるから始末が悪い。
 いつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれる、そう思っていた時期がありました。
 あ、調子に乗った透からメールが来た。下にいるよ、か。あたしは玄関に向かった。
「おはよ、佳織」
 満面の笑みを浮かべた透が運転席に座っていた。うわ、何でこんなにニヤけてんの。
「お、おはよ。運転大丈夫なの?」
「大丈夫だって! 俺に任せておけばオッケー!」
 そう聞くと、透はノリノリでローラの真似をしながら答えた。不安でしょうがない。

「俺の運転で佳織とデートなんて、高校時代には全然想像してなかったなぁ」
 意外に滑らかに車を走らせながら、透はそんな風に言った。それはあたしも同感だ。透の運転でこんな風に何処かに行くなんて、高校の頃は全然想像したこともなかった。
 そういえば――あの頃は透のことを一度たりとも恋愛対象として見たことはなかった。結局三年間丸々同じクラスで、ずっと委員長・副委員長として仕事をしてたけど、単なるウザいやつ、くらいにしか思ってなかった。いつからだったかしら、変わったのは。
「お互いに印象が変わったのは遊園地の時からだよな、たぶん」
 透もあの頃のことを思い出していたみたいだ。その横顔は何処か遠い目をしていた。
 そういえば、司馬君がチケットが余ってるからって遊園地に誘ってくれたんだっけ。ああ、あの時は特別ゲストが来る、なんて聞いてたから誰だろうってドキドキしてた。
 で、軽い足取りで遊園地に着いたら、待ってたのは透。新手の詐欺かと思ったわよ。
「少なくとも俺はあの時からかな、佳織のことを意識し始めたのは」
 透は前を向いたまま、聞き捨てならないことを言った。何言ってんのよ、もうバカ。
「いてっ。お前、運転中に頭叩いたら危ないだろ。それとも俺と死にたいのか?」
 むう。それだけは絶対に嫌だ。透となんか一緒に死にたくない。
「だったら大人しくしてろよ。お前は黙ってれば可愛いんだからさ、な?」
 透はニヤつきながらちらりとあたしを見て、さり気なくそんなことを言ってきた。運転中であたしが殴れないのを良いことに、こいつまた調子に乗り始めてる。超ムカつく。
 あたしは透に聞こえるように大袈裟にため息を吐き、そっぽを向いた。

 実はあたしも、透に対する印象が変わったのは遊園地の時からだった。最初は嫌ってたやつを好きになるのは恋愛漫画の王道だけど、現実にはあり得ないことだと思ってた。だって、あたしの嫌ってるやつは透で、何処にも好きになる要素なんかなかったから。
「まあ最後のダメ押しは、佳織がバレンタインにチョコくれたことだけどな」
 透は真面目な顔つきに戻っていた。信号が赤に変わり、緩やかにブレーキをかかる。
 確かに一年半前の冬、あたしは透にチョコをあげた。……血迷っただけだ、きっと。
「あの時の佳織、義理よ義理っ、なんて言ってたけどさ。俺に惚れてんのがバレバレだったぜ? 顔真っ赤だったし、義理とか言っといて手作りとか口走っちゃってたもんな」
 こいつ半殺しにする。あとで絶対半殺しにする。あたしは透を思いきり睨み付けた。
「怒るなって。あの時の佳織、めちゃくちゃ可愛かったし、俺ホントに嬉しかったよ」
「ああ、もうっ! 真顔でそういうこと言うなっ! 顔から火が出るでしょ、バカっ!」
「いてっ。おい、危ないって言ってるだろ。一応俺、まだ初心者なんだからな?」
 我慢の限界を越えたので一発殴ってやった。信号が赤のうちに殴らずいつ殴るのよ。
「あ、ほら。信号が青に変わった。だからもう殴るの禁止な?」
 透はアクセルを踏み込みながら言った。超ムカつく。運転終わったら絶対ぶん殴る。
 ただ、これだけは認めてあげてもいい。初心者の割に、透は意外にも運転が上手い。

「佳織がチョコくれたおかげでさ、俺も告白する勇気が出たから。ありがとな、佳織」
 あああああっ!! だから、真顔でそういうこと言うなぁあああああっ!!
「ほらほら、通行人が振り返ったぞ。デカい声出したら周りにも迷惑だろ?」
 もう、何なのこいつ。こういう時だけ冷静ぶって、超ムカつくんだけど。キモッ!!
「キモいは俺たちの業界では褒め言葉だぜ? ありがとな、佳織」
 鳥肌が立った。何こいつ、変な物でも食べたんじゃない? それか頭でも打ったとか。
「俺がキモいのはいつものことだろ?」
 まあ、それもそうね。それはそれでどうなのって思うけど、きっと気にしたら負けね。
 あたしはどうにか冷静さを取り戻し、すっかり忘れていたことを聞いた。
「そんなことより、何処に向かってるのよ」
「ん。初心者だからあんまり遠出は出来ないから、近場だけどさ」
 透は答えを言おうか迷ったようだったけど、結局そんな風にお茶を濁した。
「何よ、気になるじゃない。さっさと言いなさいよ」
「うーん……まあいっか。隠すことでもないしな。ほら、見えてきただろ?」
 あたしがドスを利かせたから……というわけでもないんだろうけど、透は左前方を指差して言った。そこに在る建物は間違いなく、あたしの母校。あたしたちの高校だ。
「懐かしくなったついでにさ。卒業してから鈴木先生にも挨拶してないしな」
 透の言葉にあたしは押し黙った。あんたってやつはホントに……バカなんだから――。


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