時間旅行――タイムトラベル

〜第3節 旅行者の末路〜

――う…む…はっ。こ、此処は…? そうか、我々はあの異空間で次元の裂け目に…。ともかく意識ははっきりしているようだ。助かった。
 金井はゆっくりと目を開け、体を起こしながら辺りを見回した。見たこともない部屋にそのまま寝かされていた。隣には香川も突っ伏している。
「おい、大丈夫か。しっかりするんだ。此処は何処だろうか?」
「う…博士…大丈夫でしたか…? こ、此処は…古い屋敷でしょうか?」
 金井は隣で寝かされていた香川に声をかけて起こし、一応尋ねてみた。香川にも此処が何処であるのか、わかるはずはないのだが…。
 香川は何度か瞬きをした後、気だるそうに起き上がり、金井と同じように周囲を見回しながら言った。表情には苦渋が滲み出ていた。
 その時、後ろの方から重い扉のようなものが開く音がしたかと思うと、金属が擦れるような音をさせながら三人の男が部屋に入ってきた。
 そのうちの二人の顔を見た途端、金井と香川は息を呑んだ。
「お目覚めになったか、お主達。良くぞ生きておられた。私はてっきり…」
「余計な言葉はいらん。必要なことだけ述べよ」
 金井と香川は頭痛を堪えて三人の男を見据えた。とても現状を把握できるわけがない。しかしどうにか頭を回転させようと必死に努めた。
 口の軽い左の男を遮り、真ん中の偉そうにしている男がたしなめた。左の男はすみません、と謝った後、咳払いをして改めて口を開いた。
「お前達が何者かは知らぬが、顔を見ればわかる通り、このお方と隣の仕えの者にそっくりではないか。これは偶然とは思えぬ。何者か白状しろ」
 そうだった。話している男の他の二人は金井と香川にそっくりだった。
 一瞬ドッペルゲンガーかと思考を巡らせたが、落ち着いて考えてみれば、おそらくこの時代における自分達の祖先なのだろうと推測できた。
「…信じていただけないかもしれませんが、私たちはタイムマシンという乗り物…先日開発に成功したばかりなのですが、過去にも未来にもいける乗り物を使って、2XXX年からやってきたのです」
「私たちはその乗り物で旅行中に、次元の裂け目…事故に遭いまして、生死もわからない状態に陥り、こうして貴方たちに見つけていただいたというわけなのです。決して怪しい者ではありません」
 香川が先にやや上擦った口調で話し始め、途中で金井が後を引き取るように努めて冷静に事実を伝えた。二人とも表情が硬いのは当然だろう。
「ほほう。お前たちは突然我々の母屋の前に現れてな。生きているのかもわからんかったし、とりあえず此処に運び込んだというわけだ」
「町の外れに現れて幸運だったな。町のど真ん中で倒れていたら、怪しい者と間違われて殺されていたかもしれぬ。我々に感謝してもらいたい」
 左の男が経緯を語り、続いて香川に似た右の男が口を挟んだ。

「そこで、ちょっとお主らに頼みがある。見ての通り、お主らは我々と姿がそっくりだ。服さえ着替えてしまえば見分けがつかんじゃろう」
 すると真ん中の金井に似た男がチラッと香川似の男に視線を走らせ、目の前の二人に視線を戻しながら言った。
「つまり、貴方たちは私たちに影武者になれと仰りたいわけですか」
「そうだ。良いじゃろう、どうせあの妙な乗り物は壊れておる。お主らもそんな格好で町をウロついたら怪しまれるし、一石二鳥ではないか」
 金井の発言に対し、金井に似た男は威圧的な口調で説得してきた。
 金井は自分似の男から視線を逸らさずに短時間で考えた。はっきり言って影武者などはご免だったが、そうするしか手立てがないのも事実だ。
「わかりました。私たちも今のままでは手立てがない。そうするしかないでしょうし、貴方たちは恩人ですからね。お引き受けしましょう」
 金井は言いながら、どうにかしてタイムマシンを復旧させ、必ず此処を抜け出さねばならないと思っていた。それまでは辛抱するしかない。
「おお、さすが我に似ているだけあり、物事の道理がよくわかっておる。服を持ってこさせるからそれを着て、しばらく此処にいてくれたまえ」
 金井の腹の底の考えなど思っても見ないのか、金井似の男は金井の返事を聞き、敵の大将を討ち取ったかのような満面の笑みを見せた。

 しばらくして付き人らしき男が金井・香川似の男たちの予備の服を持って来て、着るように命じた。金井と香川は仕方なくそれに着替えた。
 それから夜が明けるまで、二人はそのままそこに留まった。幸いにも食事は与えられるし、とりあえず今後の方針を考えねばならない――
 しかしそこに留まってしまったばっかりに、まさか翌朝には二人の人生が終わることになろうとは、いったい誰が予想できただろうか。
 二人は翌日、目覚めて自分たちに似た男の姿が見えないことに気付いてからまもなく、此処で見知らぬ男たちによって殺されたのだった。
 二人は知る由も無いが、最初に此処で出会った三人はこの時代の幕府に対し反逆事件を起こして恨みを買い、町の外れまで逃げてきていた。
 それはもちろん幕府に命を狙われているからである。その時、偶然にも自分たちにそっくりな男が現れた。その瞬間に思いついたのだった。
 何とか理由をつけて自分たちの影武者として此処に居座ってもらい、その間に自分たちはさらに追っ手から逃げる。彼らには悪いが、自分たちの身代わりとして死んでもらおう。そして自分たちは生き延びるのだ――
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