学校が休みに入ってからというもの、1日ってこんなに短かったのかと唖然とした。それもそのはずで、昼頃にベッドからもぞもぞと起き始めているのだから、当然のことではあった。
とは言えまだ7月、約40日に及ぶ長い夏休みはまだ始まったばかりさ。言うまでもなく学校から課された、山積みの課題に手を付ける気になるはずもなく、ダラダラと過ごしている。
そんなある日、司馬から携帯に電話が入った。用件は学校で話した、例の遊園地のことだった。
『やぁ、久しぶり。有意義な夏休みを過ごしてるかい?』
2週間ぶりに聞いた司馬の声は、俺のように寝惚けた声ではなかったが、幾分疲れ気味なようだった。
「よ。怠惰な生活を満喫していたところさ」
『それは不健康だな。俺はちょっと疲弊気味なんだ。一応は大学受験を控えた高校生だからね』
俺がゆったりとした声で答えると、司馬は少し呆れた口調で、嫌なことを言ってきた。このまま話を続けると、俺のテンションが落ちていきそうだったので、話題を変えることにする。
「それはご苦労なことで。それで、何の用だ? 用がないとは言わせないぜ」
『まさか。ほら、夏休み前に話したろ。遊園地の件だ。日時が決まったからさ』
そういえば全然連絡がなかったから、俺はてっきり中止になったのかと思っていた。
「あぁ、あれか。随分決まるのが遅かったな。で、いつになったんだ?」
『明日だ』
…いや、明日って。それはちょっと急すぎやしないか? もう少し余裕があっても良いだろうに。
『実を言うと、他の皆には1週間前に連絡したんだけど、夢原に言うのを忘れてた』
おいおい、そこはおどけるところじゃないと思うのだが。というか、いくら俺でも忘れられていたというのは些かショックである。まぁ遊園地に行くだけなら、特別用意することもないかもしれないけど、心の準備期間って奴は必要だと思わないか? もう手遅れのようだが。
「…まぁ色々と言いたいことはあるが、分かった。場所と時間をもう1度確認させてくれ」
俺は遊園地の場所と集合時間を再度確認し、二言三言どうでもいい話をしてから電話を切った。
遊園地の場所は俺の家から近い。最寄り駅から京葉線で、乗り換えをせずに二駅で行ける距離にある。集合時間は午前10時頃、集合場所は遊園地の最寄り駅前だった。
俺はゴールデンウィークの望との買い物を思い出して、今回は寝坊しないことを心に誓った。
早速目覚まし時計を持ち出し、十分間に合う時間に針を合わせた。念入りに確認してから、俺はネットでもしようかと思い立ち、パソコンの起動ボタンを押した。
翌日、午前8時半。部屋に鳴り響く目覚まし時計を止めながら、2度寝に入ろうとしてやめた。今日は遊園地に行く日である。はっきり言って、眠い。眠すぎる。
夏休みに入ってから生活リズムが崩れていたので、昨夜は早起きのために早く寝ようとしたのだが全く眠れず、徹夜を覚悟し始めた朝方に爆睡に入ってしまった。
俺はだらしなく口を開けたまま静止していたが、起きかけの寝惚けた思考に喝を入れ、重い体を引き摺ってベッドから這い出した。まず顔を洗ってすっきりしよう。
俺は顔を洗った後、冷蔵庫の菓子パンをのそのそと食べ、冷えた麦茶で流し込んだ。再度洗面所に行き、一応歯を磨き、ぼさぼさの髪型を整えた。いかん、寝癖がキツい。
部屋に戻って寝癖直しスプレーをかけ、寝間着代わりの汗臭いシャツをベッドに抛り、Tシャツの上にチェックのYシャツを羽織る。下はクリーム色の半ズボンにした。
適当に必要なもの、とは言っても懐の寂しい財布と折り畳み傘、お気に入りの文庫本程度なのだが、それを乱雑に放り込んだ鞄を肩にかけ、見落としがないことを確認し、玄関へ向かう。
そこで一瞬、望に「一緒に行こう」と連絡を入れておくべきか考えたが、結局やめた。望の性格上、もう既に電車に乗っている頃かもしれない。言うなら昨日の時点で言っておくべきだった。
玄関を出て、駐輪場から自転車を引っ張り出して、腕時計を見る。午前9時を10分ほど過ぎていた。まだ時間に余裕があるので、俺はゆっくりと自転車のペダルに力を込めた。
雲1つ見当たらない青空を見上げて、妙に晴々とした気持ちになる。天気が良いのは良いことだ。そして俺は今日も暑くなりそうだな、ということと同時に、こんなことを思うのだった。
夏なんだな、なんて当たり前のことをさ。