記憶を旅して 〜trip to the memories〜

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〜第11話 皆で遊園地へ(1/3)〜


 駅の駐輪場に自転車を置き、腕時計に目を落とすと、既に午前9時半になろうとしているところだった。少しゆっくりし過ぎたかと思ったが、まぁ集合時間に遅れることはないだろう。
 駐輪場を出て真っ直ぐに進み、階段を上っていざ駅へ入ろうとして、俺は何気なく右下を見た。驚いた。右下にある小さな噴水の前に、望の姿があったからだ。俺は思わず足を止めた。その噴水はGWに望と待ち合わせた場所でもあった。たった2ヶ月前の事なのに、遠い過去のことのように懐かしく感じる。
 望は不安そうに俯いており、時折思い出したように左右を見回していた。てっきり先に行ったとばかり思っていたのだが、あの様子から察するに、どうやら俺のことを待っていたらしい。何か温かいような、くすぐったいような、妙な気持ちを感じながら、俺は上から身を乗り出して望に声をかけた。
「望っ。何してるんだ?」
「あ、深也。遅いよっ。てっきりもうちょっと早く来ると思って待ってたのに」
 何処から声がかかったのかが分からなかったのか、驚いて辺りを見回し、最後に振り向いて俺を見上げた望は、笑みを湛えながらも拗ねた声を出した。
「ごめん、先に行ってると思ったんだ。連絡してくれれば良かったのに」
「驚かせたかったの。でも深也が気付かずに行っちゃったらどうしようかと思った」
 望は微風に靡く髪を押さえて言った。望の口調には、何処かホッとしたような響きが含まれている。
「そんなこと、あるわけないだろう。ほら、行こう。あまり時間に余裕があるわけでもないしさ」
「うんっ」
 大きく頷いて階段を上がり、望が俺の隣に並ぶ。白と緑のワンピース姿が何故か儚く映った。

 平日の午前中だと言うのに、駅は若者の姿が多く見られた。流石は夏休みだな。
 俺は券売機の前に立つと、二駅先までの切符を買った。普段チャリ通の俺はほとんど電車に乗らないため、定期やsuicaの類を持っていない。というか買い方も知らない。
「あれ、深也は切符?」
「まぁな」
 望は財布からsuicaを取り出し準備万端である。むむ、そのいかにも時代遅れだなぁ、みたいな目で俺を見ないでくれ。というか望だって電車通学じゃないのにsuica持ってるんだな。
 そんなこんなで電車に乗り込むと、10分程度で目的の駅に到着した。腕時計に視線を落とすと、まだ10時までには10分以上の時間があった。少しホッとした。
 とは言うものの、流石と言うべきなのか、集合場所に行ってみると既に全員が揃っていた。真っ先に視界に入ってきたのは、遊園地のチケットをひらひらさせて、爽やか0円スマイルを浮かべている司馬。そして見るからに不機嫌そうな顔で、仁王立ちしているのは五月だ。理由はすぐに合点がいった。
 何を隠そう、五月の隣で突っ立っている特別ゲストと称された人物の1人が、クラス委員長の五十嵐だったからだろう。その五十嵐は、俺と望のことを勘繰りたそうな目をしていたが、無視することにする。
 最後に視線を司馬の右隣に向けると、知らない顔の女の子がぎこちなく会釈をしてきた。つられて俺も会釈を返し、司馬に視線を戻す。どうやら彼女がもう1人の特別ゲストらしい。

「遅かったじゃないか。夢原が最後だぜ」
 ご丁寧に薄い水色のYシャツに、藍と銀のチェックのネクタイを締めた姿で司馬が言った。
「時間には間に合ってるぜ。とは言え待たせてしまったのならすまなかった」
 司馬と五十嵐はともかく、明らかに不機嫌な五月と見知らぬ女の子の手前、一応謝っておこう。
「で、早速だが特別ゲストの紹介をお願いしようか」
 重ねて言うが五十嵐はともかく、この見知らぬ女の子と司馬の関係も気になるところだった。
「あぁ、そうだった。紹介しよう、彼女は初音未来さんだ」
 司馬は左手をその女の子、初音未来さんに向けながらわざとらしくそう言った。
「初めまして、初音未来と言います。啓介さんからお二人のお話は聞いてます」
「夢原深也です。司馬が変なことを言ってなきゃいいんですけど」
 俺は自己紹介を返しながら、改めて初音さんを見つめた。長い髪をツインテールにしており、それがよく似合っている。しかも控えめなのに聞きやすい、可愛らしい声の持ち主だった。
「そんなことありません。啓介さん、夢原さんのことはいつも褒めてます」
 清楚な感じで、自然な微笑みが何とも言えない。なるほど、これは司馬の好みかもしれない。
 初音さんが望の方に視線を向けたので、望も自己紹介をしている。話が合いそうで何よりだ。
「それじゃ、10時になるからそろそろ入ろうか。皆にチケットを渡しておくよ」
 司馬から順番にチケットをもらい、自然と2人1組になって遊園地に向かって歩き出す。俺の隣には笑顔のよく似合う望がいる。それだけで何故か俺の心は落ち着いた。
 いつまでも、こんな楽しい一時が続けばいい。俺はこの時、心からそう思っていた――


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