午前10時過ぎ。息せき切って皆で遊園地に突入したのはいいが、流石に夏休みとあって園内は溢れんばかりの人で埋め尽くされていた。まるで人がゴ…いや、やめておこう。一応ある程度は覚悟していたのだが、元々インドアを越えて超出不精な俺には気が遠くなる気さえする。
とりあえず順番待ちの少ないものから乗っていこう、という司馬の提案が採用された。自然に2人1組で移動し始めたものの、結局6人ともつかず離れずの状態で同じ方向に向かっている。まぁ順番待ちの少ないアトラクションは限られているから、仕方ないと言えば仕方ないか。
俺はしばらくたくさんの人と、様々なアトラクションが聳える光景を眺めていたが、不意に自分がひどくちっぽけな存在に思えてきた。いやいや、こんなところで鬱になってどうするんだ、俺。
俺は軽く頭を振って邪念を消し、何気なく右隣を歩く望に目を向けた。見事に望と目が合った。
「楽しくない?」
俺から目を逸らすことなく、少しだけ首を傾けながら望が聞いてきた。
「そんなことあるわけないじゃないか。望は?」
「良かった。私は楽しいよ。深也と遊園地なんて何年ぶりかなぁ」
過去を懐かしむ望を見て、そういえば昔はよく遊園地に行ったな、と俺も思い出した。記憶の引き出しにしまわれている、大切な思い出。なのに、どうして今まで思い出さなかったんだろう。
いくつかのアトラクションを回った後、俺達6人はちょっとしたレストランに入っていた。ちょうど昼時で、良い具合に空腹になっていたところだった。悔しいが司馬の判断はいつも適切である。
俺はミートソーススパゲッティを頬張りながら、司馬に気になっていたことを聞いた。
「おい、司馬。彼女とは実際のところ、どういう関係なんだ?」
司馬はサンドウィッチを食べる手を止めて、珍しく言いづらそうな顔を作った。
「どういう、とはどういう意味だい」
「だから、恋人同士というわけではないのか?」
司馬は望、五月と談笑している初音さんの横顔を眺めてから、俺に目を戻して言った。
「うん、実は付き合ってるんだ。いや、別に黙ってたわけではないんだけどさ」
「何だって? どうして早く言ってくれなかったんだ」
俺は親友に大事なことを隠されていた気がして、つい尖った口調になっていた。
「付き合い始めたのは、極最近のことなんだ。経緯を話すと長くなるから、後日きちんと話すよ」
「仕方ないな。絶対だからな」
しかしながら俺にも分別があるので、此処は空気を読んで詰問するのは自粛しておく。
「当たり前だ。夢原は俺の親友なんだから、話さないはずがない」
何となくはぐらかされた気がしないでもないが、俺は頷いて再びフォークを握った。
「ったく、2人は仲が良いよな。俺だけ蚊帳の外かよ」
談笑を続ける女性達3人と、俺と司馬を眺めて肩を竦めているのは五十嵐である。今更だが、考えてみればメンバー的にも、実は五十嵐だけが楽しめていないんじゃないだろうか?
「すまない。別に除け者にしたつもりはないんだ」
俺と同じことを考えたのか、司馬がフォローするように口を開いた。
「まぁ良いけどさ。誘ってもらえただけありがたいよ」
俺は少し意外に感じた。五十嵐はもっと積極的で、ハキハキした明るい奴だと思っていたからだ。クラス委員長にも率先して立候補していたし。考え方を改める必要があるかもしれない。
「五月と仲良くしてやれよ。五月もお前のこと、嫌ってるわけじゃないと思うし」
俺はうっかりそんな風に言ってしまった。五十嵐が顔を顰めたので、一瞬地雷を踏んだかと思ったが、実際にはそうでもなかったらしい。次に五十嵐の口から出てきたのは、こんな言葉だったからだ。
「俺は良いんだけどな。あいつが俺をどう思ってるかが全くわからん」
「まぁまぁ。午後の部で親睦を深めてくれよ」
結局司馬がそのように場をまとめて立ち上がった。俺は慌てて口に含んでいたジュースを飲み干した。会計は勿論割り勘だ。期待していたわけではないが、司馬もそこまで面倒は見てくれないか。
さて。俺達はレストランを後にし、中央の広場に立っている。いわゆる遊園地午後の部である。今度は正真正銘2人1組、好きなように回ることにしよう、というのが司馬の言い分だった。
五月だけが眉間に皺を寄せていたが、その口から異論が発せられることはなかった。あくまで俺の予感だが、実は五月も満更ではなかったりするんじゃないだろうか。とても口には出せないが。
誰からも異論が出なかったので、司馬は午後5時に再度この広場に集合ということを取り決めた後、ではお先に、という言葉を残して、真っ先に初音さんを連れ立って移動を開始した。
それを見てやむなく、というわけでもないと俺は勝手に想像しているのだが、無言で五月が何処かに向かって歩き始めたので、五十嵐はため息をついて五月の後を追って行った。
2組が広場から離れるのを見送ってから、俺は隣にいる望に視線を移した。
「さて。俺達は何に乗ろうか?」
集合時間の午後5時までにはあと3時間半弱だった。移動は早い方が良いだろう。
「えっとね、私、深也とあれに乗りたいなぁ」
西に傾き始めた太陽が眩しいのか、顔の前に手を翳しながら望が指を差したのは観覧車だった。園内で最も人気のある、日本でも何番目かに大きな観覧車で、夜は輝くネオンが綺麗だという噂である。昼間とは言え、順番待ちの長い大観覧車だ。早く行かなければ、集合時間には間に合いそうにない。
「よし、行こう」
望が満面の笑みで頷くのを確認した後、俺は望の手を取って観覧車に向かって走り始めた――