記憶を旅して 〜trip to the memories〜

Back Novels Next


〜第9話 Happiness plan〜


 中間テストが終わり、チャリ通にとって天敵である梅雨、6月も足早に過ぎて行った。過ぎた時間の早さに驚かされるのはいつものことだが、6月は特に早かったように思う。
 それは中間テストから期末テストの間が、1ヶ月ちょっとしかなかったからかもしれない。あるいは大きな行事もなく、平凡な授業の繰り返しを流れ作業のようにスルーしていたからか。
 いや、今はそんなことはどうでも良いんだ。過ぎた時間を懐かしむのは1人の時で良い。今重要なのは、今日が期末テスト4日目にして、最終日であるってことだけさ。
 そう、時は7月上旬になっていた。じめじめと蒸し暑い日々が過ぎたかと思えば、今度は灼熱の如く厳しい暑さが続いている。登校時に流れ落ちる汗は、こうも目に沁みるのかと思った。
 学校の方は期末テスト最終日にして3時限目。最後の教科にして、不安要素の高い英語が最後の敵だった。予想通り微妙な出来具合となってしまったが、終わりよければ全て良し。何しろ後は夏休みが待っているだけなのだから、多少成績が悪くとも構いやしない。
 暗澹たる4日間の呪縛から解放され、一時の喜びを噛み締めつつ、俺は大きく伸びをした。
 教室の前の方では、早くも夏休み中の遊びの計画を立てているらしく、女子の声が耳に届く。俺はと言えば、特に計画という計画はないし、自分でこの夏、勉強しようという気もあまりなかった。まぁ俺の大学進学に焦りを覚えている両親に、何処かの予備校に放り込まれるのが関の山だろう。

 そんな風に呑気に思考を巡らせながら、俺は何気なく教室の様子を一瞥して違和感を覚えた。理由はすぐに思いあたった。望と司馬、それに五月の3人が話していたからだ。
 テストの時は出席番号順、つまり名前の順に座るので、3人は自然と縦一列に並ぶことになる。だが、あの3人が和気藹々と話している姿は、今まで目にした覚えがなかった。
 俺は妙な気持ちを覚えている自分に気が付いて、少し自己嫌悪を感じた。断っておくが、俺があの3人に除け者にされて、ネガティブになっているわけではない。じゃあ何だ、と言われると困るのだが…。
 そんなことを考えていると、司馬を先頭に3人が俺の席にやってきた。
「テストが終わって早々だけど、夏休み中に皆で遊園地にでも行こうかと思ってるんだ」
 司馬の第一声がそれだった。何を言い出すのかと思えば、遊園地? それに皆って誰だ?
「いや、実は俺の伯父さんが、懸賞であたったとかで、遊園地の割引券をくれたんだ」
 俺の視線をどう受け止めたのか、司馬がガラでもなく遊園地に行こう、などと言い出した種明かしをしてくれた。望と五月の様子を鑑みるに、既に話を聞いているらしい。ということは、この2人も来るのかな。
「返すのも悪いし、せっかくだからさ。夢原も来てくれるだろう?」
 爽やかな笑みを浮かべる司馬に、どう答えたものかと思っていると、五月が横から口を開いた。
「いい伯父さんがいたもんよね。あたしまで誘ってもらえるなんて思ってもみなかった」
 何となく五月の目が輝いて見えるのは、錯覚ではないらしい。司馬も苦笑いしてるからな。
「6枚ももらっちゃったからね。とりあえず、空いてる日時を確認しておいてほしい」
「俺は別にいつでもいいけど」
 俺は反射的に返答してしまった。まぁ、もともと何の計画もないし、家でゴロゴロしていても退屈だろうから、遊園地に行ってみるのも悪くはないんじゃないか?

 ところで割引券が6枚ということは、当然メンバーも6人ということになる。俺は司馬、望、五月と順に視線を移し、残りの2人は誰を誘うのだろう、と考えた。
 すると俺の思考回路を読んだかのように、司馬は前髪を軽く指で弾きながら言った。
「大丈夫、残りの2人も決まってるんだ。とは言っても、まだ話してないんだけどさ」
「司馬君の話だと、残りの2人はサプライズゲストにしたいから、当日まで私達には内緒なんだって」
 遊園地が楽しみなのか、少し興奮冷めやらぬ声で望が口を挟んだ。
 なるほど、サプライズゲストか。それは結構楽しみだ。ぜひとも司馬の人選センスに期待したい。
「誰が来るのか、今からわくわくしちゃうっ。あたし達の知ってる人かなぁ」
 ふむ、どうやら女性陣は遊園地がお好きなようだ。司馬め、好感度上げ作戦じゃないだろうな。
「じゃあ日時が決まったら、おってメールするからよろしく」
 司馬が親指を立てながら言った。俺と望が頷き、五月は指でオーケーサインを作った。
 その後、鈴木教諭がショートホームルームをしに教室に来るまで、しばらく雑談に華が咲いた――


Back Novels Next