記憶を旅して 〜trip to the memories〜

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〜第16話 School festival(1/2)〜


 暖かいというよりは寧ろ暑苦しいと言った方が確実に正解であろう、残暑が続いていた。
 昔のこの時期ならとっくに、紅葉が嬉しそうに赤や黄に葉の色を染め、涼しい風を感じられるのに…などとぶつくさ文句を言っても、この暑さには何の影響もない。全く地球はどうなることやら。
 何はともあれ、今日は文化祭である。誰を見ても皆一様にテンションが高く、楽しそうに騒いでいる。始業式ではくだらないと思っていたが、始まってしまえばその場の雰囲気も手伝って、俺も気分が盛り上がってきた。6時間ぎっしりの平常授業よりマシなのは、言うまでもないからな。それを考えると、数日前から今さっきまで七面倒臭い準備をやらされていたのにも目を瞑れるというものだ。

 さて。現在の時刻はもうすぐ午前10時になる頃だ。文化祭の開始時刻は午前9時である。俺がこの1時間の間に何をしていたのかと言えば、不運にも初っ端から受付をさせられていた。クラスの出し物の受付なんて、文化祭実行委員や委員長とかにやらせておけばいいんじゃないか? などと思いつつも、俺は1時間限りの相方を見やった。そいつはクラスの委員長、五十嵐である。
 委員長という名目上、担任の鈴木教諭に扱き使われた挙句、副委員長には愛想を尽かされる。実は今回の文化祭で1番疲弊しているとしたら、こいつなのではないかと思う。まぁちょっとばかし同情する。
 しかし最初の受付の担当というのは、あながち間違いではなかったと振り返ってみて思う。何故なら文化祭開始当初はまだ人気が少なく、精神的に疲れる対応も数回で済んだからである。
 しばらくの間は2人で華のない、とりとめもない雑談――特に例の遊園地でのこと――をした。ところが話すネタも早々に尽き、あまり人の入りのよくない我がクラスの受付にも飽きてきた。そして俺は心の中で戯れ言をぼやきながら、解放時刻の午前10時を待ちわびているというわけである。
 対する五十嵐は机に肘をついた格好で、見るともなしに向かいのクラスの女子を眺めている。

 午前10時を迎えた。俺は早速席を立ち、五十嵐に労いの言葉をかけつつ、廊下から退散した。
 とは言っても、行く当てがあるわけではなかった。更に言えば、一緒に回る友人もいなかった。司馬とはこの頃、俺の方から交流を避けている節がある。その方が司馬のためでもあるからだ。
 司馬も当初は俺のことを気遣い、今回も一緒に回るつもりでいたようだが、俺の方から断った。恐らく司馬は今頃、初音さんと一緒に回っているだろう。望は女同士で回っているはずだった。
 というわけで、俺はなんだか打ちひしがれたような気分で、とぼとぼと1人で廊下を歩いている。今まで面を付き合わせていたし、話題もなくなった五十嵐と共に回る気にもなれなかった。
 俺は行く当てを求め、ポケットから折り曲げたパンフレットを取り出した。ぱらぱらと捲ってみる。然程興味のある出し物は見つからなかったが、とりあえず俺達の学年の教室を見て回ることにした。
 2年生の教室を見て回ったところで、良い具合に時間が経っていた。思ったより暇を潰せた。
 ちょうど昼になったので、俺は屋外にある模擬店へ行ってみることにした。良い匂いが漂っている。
 が、アスファルトを反射した日光がやけに暑く感じる。これって、何現象って言うんだったっけ? などと考えつつ、俺は模擬店では最もベターであろう焼き蕎麦を購入し、しばし日陰を求めて彷徨った。
 校舎の陰になる、割合静かな場所を見つけて、そこに腰を下ろす。俺は割り箸を割り、蓋を開けた。具が少なく、ソースの味しか感じない焼き蕎麦を啜り、俺は一体何をしているんだろうと思った。
 不意に頭の中で、妙な既視感が通り過ぎていったような気がした。だが、それは一瞬のことだった。結局今のが何なのかはよくわからなかった。俺は頭を振り、焼き蕎麦を啜ることだけに専念した。

 その後、数分かけて焼き蕎麦を食べ終えた。紙皿と割り箸を片手に、立ち上がろうと後ろを向く。俺はそこで動きを止め、思わず目を見開いていた。そこには俺のよく知る人が立っていたからだ。
「望…どうして此処に?」
 俺は無意識にそう言っていた。そこには照れたように微笑み、髪をかき上げる望がいたのだ。
「お財布、忘れちゃって…それに最初から、午後は深也と回るつもりだったんだよ」
 望は宝石のように透き通った瞳でそう言った。この瞳の前にはどうしたって敵いっこない。
「そっか…よし、じゃあ一緒に行こう。昼飯、まだだろう? 何か奢るよ」
「うんっ。ありがとう」
 嬉しそうにはにかむ望を見ていると、さっき感じた既視感はもう既に何処かに消えていた――


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