記憶を旅して 〜trip to the memories〜

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〜第18話 体育祭の最中で〜


 夕方になるとようやく涼しい風が吹くようになって来た気がしないでもない、9月の下旬。イベント続きの我が高校では本日、体育祭が行われていた。はっきり言ってまったく気が進まない。出る種目は少ないものの、俺はスポーツ自体が嫌いな、専ら超インドア派の人種だからである。せめてもの救いは今日の天候が晴れ渡る炎天下ではなく、薄い曇り空だということくらいなものだ。
 ランチの時間にはまだ遠く、しかし体育祭が始まってから既に1時間ほどの時刻が経過していた。俺は1年生の障害物競走を見るともなく眺めながら、先日の文化祭でのことを思い出していた。
 模擬店のジャガバターを食べながら、今回の文化祭の感想を楽しそうに俺に話してくれた望。去年まで望がいた高校の文化祭は、クラスの生徒達の団結力・行動力が乏しく、楽しくなかったらしい。
 今年は深也も一緒だし、凄く楽しい――そう語った望の瞳を、俺は忘れられなかった。
 結局文化祭が終わるまで、俺は望と行動を共にした。様々な教室や模擬店を巡り、笑い合う。望の気持ちに気が付いていないのかと聞かれれば、それは嘘になる。俺だってそこまで鈍感ではない。観覧車に乗った時もそうだったし、今回の文化祭でも、俺は望の気持ちを少なからず認識することになった。
 では俺はどうすれば良い? 望の気持ちを漠然と感じてはいるが、どうするのが一番良いのだろう。分からなかった。どうすれば良いのかも、俺の本当の気持ちも。だから今も俺はこうしている。
 望のことは勿論、嫌いなはずがない。俺のかけがえのない幼馴染であることは何よりも確かだ。しかし、これが恋愛感情なのかと聞かれると疑問が残る。それに俺は前に踏み出すことにも躊躇いを感じている。
 それに、そうだ。望が俺に恋愛感情を抱いていると決まったわけではないじゃないか。…いや、結局俺は逃げているだけなのかもしれない。答えを出すことを先送りにしているだけなんじゃないのか。

「何難しい顔してるんだ?」
 その時不意に横から声をかけられ、俺は思考を中断した。いつの間にか司馬が隣に立っていた。
「春崎さんのことだろう。彼女と今後どう向き合うのか、か?」
 俺は曖昧な言葉で誤魔化そうとしたが、その前に司馬が図星を突いてきたため閉口した。
「1人で悩むのは良くないな。俺でよければいつでも相談に乗るぞ」
 親指を立てて笑みを浮かべる司馬が、いつになく頼もしい。本当にこいつが親友で良かった。
「うん…ありがとな。そのうち相談することになるかもしれない。その時はよろしく頼むよ」
「分かった。ほら、今はガッツを見せる時だ。次は俺達の出番らしい」
 司馬の言葉通り、校庭に体育祭実行委員の声が響く。校庭の片隅に俺達のクラスの他、同じ学年の生徒達が集まっていた。始業式の体育館ほどではないが、あっという間に校庭が手狭に感じる。
 次の競技は2学年の生徒全員が出場する種目である、大縄跳びだ。五十嵐が流れる汗を袖で拭いつつ、顔を顰めていた。そういえば体育の授業で練習した時も、五十嵐は何度も引っ掛かっていたっけ。
 一方副委員長の五月は、五十嵐とはまるで対照的だった。気合に満ち溢れた声を出している。
「皆、練習の成果を見せる時よ。一丸となって頑張りましょうっ」
 五十嵐よりも元気な五月だった。何処までも勝気な奴だな、と思いながら密かに溜息をついた。
 望はと姿を探してみると、唇を真一文字に結んで、五月の言葉に頷いていた。望もやる気らしい。
 俺は1人肩を竦め、潔く立ち上がった。スポーツ嫌いなら、嫌いなりにやってやるしかないな。クソ、こうなったらありったけだ! 俺は諦めにも似た決意を固めて、クラスの皆と共に足を踏み出した――


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