記憶を旅して 〜trip to the memories〜

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〜第4話 交わした言葉〜


「夢原深也です。本を読むのが趣味です。1年間よろしくお願いします」
 皆の視線が俺に集中していた。インドア派の俺には、どうしても慣れがたいものだった。溜息にも似た深呼吸をした。考えておいた台詞をなんとか噛まずに言い終えて、席に座る。
 現在、体育館から戻った俺達は、鈴木教諭の一言により、全員が自己紹介をさせられている。
 さっきまで、どうしてこんなに日本の中年教師は話が長いのか、などと思っていたのだが、教室に戻ってから此処を出る前に聞いた鈴木教諭の言葉を思い出し、いささかの間考えに耽った。
 俺はこういうことは、最初が肝心だと思っている。第一印象で、大方の人間性が判断されるからだ。
 五月佳織のように、明るく人懐っこい性格でもない。だから、俺は友達もあまりいない。司馬啓介のように、自然体の何気ない格好良さ、なんてものも生憎持ち合わせていない。それに、再度自己紹介をさせられた望――彼女のように、凛とした爽やかな笑顔もない。ならば、俺は俺らしく、俺はこういう奴なんだ、と皆の心理に植えつけてしまうべきだ。

 というわけで、さっきの自己紹介に至った。俺の後には1人しかいないので、すぐに終わる。
「はい、ありがとう。これから1年間、皆で仲良くやっていきましょう」
 鈴木教諭は頷きながら、再び教卓に立って言った。その後一通りの話をし、今日は下校となった。
 横目で望の様子を窺うと、五月やその他数人の女子からしきりに何か話しかけられていた。今日のところは話す機会はないな、と思っていると、司馬が近付いて来るのが目の端に映った。
「お疲れ。いや、しかし転校生が来るなんて話、聞いてなかったよな。驚いた」
 司馬が望に視線を移し、また俺に戻した。俺は望のことを司馬に話すかどうか、少し迷った。
「そうだな」
「どうした。彼女に関して、何かあるのか?」
 だが、俺の迷いが表情に出てしまったのだろう。案の定、あっけなく司馬に指摘されてしまった。
 正直なところ俺は誰かに、この不思議な巡り合わせを話してみたかった。だから俺は司馬に、望との過去を掻い摘んで説明することにした。
「それは更に驚きだ。まさか、そんな偶然があるとは…せっかくだ、話しかけてみろよ」
 話を聞き終えると、さすがの司馬も今回は予想できなかったらしく、目を見開いていた。
「しかし、俺は覚えていても、彼女が覚えていないかもしれないし」
「大丈夫さ。忘れていても思い出すよ。それだけ親しくしていたんだろう?」
 俺が言葉を返すより先に、司馬が望を呼んでしまった。振り返った望と目が合った。
 くそ、司馬の奴――俺は狼狽が顔に出ないように気をつけながら、内心で司馬に舌打ちをした。
 近寄ってきた望は、俺と司馬を交互に見た。後ろで五月も、きょとんとした顔で俺達を見ている。
 司馬が話してみろと言うように、肘で突いてきたので、俺は仕方なく望の顔を見て言った。
「えーと…俺のこと、覚えてる?」
「何言ってるの、覚えてるに決まってるじゃない。だって、あんなにずっと一緒にいたじゃない?」
 望は遠くを見るような仕草をした後、微笑みを浮かべた。俺はほっとした。覚えていてくれたみたいだ。
「引越し先がこの近くだっていうのは聞いてたけど、まさか同じクラスになるなんてね」
「うん、本当驚いたよ。偶然だとは思えないな」
「なに? 2人とも知り合いだったの?」
 その時、五月が興味津々と言う目をして、俺と望を見ていることに気が付いた。
「実はね、私達は此処に転校して来る前、同じところでに住んでて、幼馴染だったの」
 俺とは違い、望は躊躇う様子もなく五月にそう説明した。
「えっ、そうだったの? それって、運命の再会って奴じゃない? 凄いじゃん!」
 望が困ったような笑みを浮かべているのに倣って、俺も曖昧な顔をしていることにした。

 その後、しばらくの間は五月を中心に話をした。時折、俺や望、司馬が口を挟む状態が続いた。
「ごめん、私引っ越しの荷物がまだ片付いてないの。早めに帰らなきゃ」
 望が片目を瞑り、掌を合わせてそう切り出したため、自然と他の者も解散という空気になった。五月達は始業式早々、部活があるらしい。司馬とは帰る方向が違うので、いつも教室で別れている。
 俺はどうしようかと思っていると、教室を出る際、望が耳元でこう囁いてきた。
「正門で待ってるから」


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