記憶を旅して 〜trip to the memories〜

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〜第5話 Regret of that day〜


 望はどういうつもりで、あんなことを言ったのだろうか。そもそも、俺は望がどういった経緯で此処に来たのかすら知らない。聞きたいことはたくさんあった。
 あの口振りからすると、望も俺と2人で話がしたいのだと考えて差し支えないだろうか。ちょうど良い機会だ、と思うべきなのか。そんなことを考えながら、革靴に履き替えた。
 先に駐輪場に寄って自転車を取りに行き、サドルには跨らずに押して正門に向かう。そこには先程の言葉通り、望が待っていた。望は俺を見つけて小さく手を上げた。
「遅いよ」
「悪い、ちょっと考え事してた」
「理由になってないよ。まぁ良いけど。行こ?」
「あぁ」
 これで手でも繋げたら恋人同士だな、なんてどうでも良いことが頭に浮かんだ。

「こうやって一緒に帰るの、何年ぶりかなぁ。凄く懐かしいね」
 少し歩いた後、空を見上げながら望が言った。南に昇った太陽が眩しいのか、目を細めていた。
「そうだな。小学生の時以来だから、7年ぶりくらいかな」
 俺はふと、今朝職員室で見かけた女子生徒のことを思い出した。あれは気のせいではなかったのだ。しかも、俺のよく知っている幼馴染だった。
「今朝職員室で鈴木先生と話してたの、あれって、望だったんだな」
「あ、見てたの? 声かけてくれれば良かったのに」
「そんな勇気はなかったさ。それに、まさか望がいるなんて思わなかった」
「そっか。それもそうだね」
 俺は望の制服が真新しいことに今更気付いた。そこで最も疑問視していることを聞いた。
「此処に来た経緯、聞いても良いかな」
「うん…簡単に言えば、深也と同じ。お父さんの転勤。しかも場所まで一緒」
「そりゃまた凄い偶然だ」
「だよね。私もそう思う」
 転校の理由として最もポピュラーなのは、やっぱり親の転勤なのかな、と思った。

「でもね、本当は少し怖かった。深也に会うのが」
 俺は眉を顰めて、望の顔を覗き込んだ。望の瞳には涙が溜まっていた。焦って何か言おうとしたが、結局何も言えないまま、望の言葉に耳を傾けるしかなかった。
「深也は私に直接、転校するって言ってくれなかったね…手紙の返事も結局くれなかった」
 俺はあの日のことを後悔していた。望もそれを覚えていたようだ。
「だから今日、深也が同じクラスだって知って、ちょっと怖かった。どうしてだと思う?」
 俺は黙っていた。というより、すぐには言葉が出てこなかった。
「深也はもう私のことを覚えてないんじゃないか。覚えてても、また無視されるんじゃないかって…」
「…すまない、本当に。俺が悪かった」
 俺は居た堪れなくなって、そう言った。立ち止まって、望に頭を下げた。
「良いの、もう済んだことだから。嫌なことを思い出させちゃってごめんね」
 望は涙を浮かべたまま微笑んだ。触れたら壊れてしまいそうな、儚い笑みだった。
 俺はポケットからハンカチを取り出し、望に差し出して言った。
「言い訳がましいんだけど、俺も怖かったんだ。もう望に会えなくなると思うと、言葉にするのが…」
「うん…すれ違ってたんだね、私達」
 望の声は微かに震えていたが、優しさに満ちていた。
 俺の中で長い間重荷に感じていたものが、ようやく降りたような気がした――


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