〜第10回 掃除〜


―――それからというもの、深海のお父さんが用意し、運転してくれるという、いかにも良いワゴン車に乗り込んだ。

7人乗ってもまだスペースがあったので、お手軽の小型バスかと錯覚しそうだ。ほどなくして、俺達は出発した。

此処でも談笑が中心だったが、俺は窓の外の景色を見て、ほとんどの時間を費やした。周りについていけない。

それというのも、先程の水沢の発言が原因の大部分を占めていた。食事なんて、普段でもほとんど作らない。

「つまらない?」

と、月野が話しかけてきてくれた。いやまぁ、つまらないってことはなく、どちらかと言えば楽しいのだが。


「いや。そんなことはないよ。ただ、こうやって変わって行く景色を眺めるのが、好きなだけ」

変わっていく景色は、いつも見慣れたそれとは異なっており、俺はこういうのを眺めているのが好きだった。

「へぇ。そういえば永峰君て、学校でも授業中、よく外の景色を見てるもんね」

「あぁ・・・そうだね。まぁ、深い意味はないよ」

俺は自分の意思とは関係なく苦笑いの表情を浮かべていることに気付き、再び窓の外の景色へと、視線を移した。

どうも、女子と会話するのは苦手だ。純粋だとか、そういうのとは違う。耐性がないと言ったほうがしっくり来る。


数分してから、視線を周りの皆に移してみた。

月野は風上と穏やかに何事か話しているし、深海は助手席で、お父さんと今後の打ち合わせらしき話をしている。

一方、水沢は露草相手に自慢話でもしているようだった。各々が楽しい時間を過ごしているなら、俺はどうでも良い。

俺は自分の鞄から文庫本を取り出し、読書の世界に入ることにした。それからは、意外にあっという間だった。

深海の別荘に行く途中にあるレストランで、少し遅めの昼食を食べ、計3時間ほどの道のりを経て、別荘に到着した。


「おぉ、此処が深海の別荘かあ。中々良いところだな」

「景色も良いし、空気も美味しいし、最高だねー」

水沢は目を輝かせて1番に別荘に駆け寄り、風上はうぅっと大きく伸びをしていた。他の皆も褒め言葉を口にする。

見晴らしの良い海が見えるし、景色は抜群だ。水沢と風上の言う通り、かなり良い別荘には違いなかった。

「はは。まぁ外観には拘ってるけど、大層なものじゃないよ」

と、温厚そうな深海のお父さんは言っている。が、どう見ても大層なものに見えるのは、俺だけではないはずだ。

「それに、随分来てないから、掃除したほうが良いかもしれないし」

父に続くように、苦笑気味に深海も言っている。俺はこんな凄い別荘なのに、あまり来ないのかと感嘆した。

「えぇー。掃除するのかよ? せっかく休めると思ったのになぁ・・・」

あまり遠慮せずに本心が言えるのは、水沢の長所・・・だと思いたい。まぁ、俺も掃除は御免被りたいところだが。

「まだ昼間なんだし、休むのは少しくらい掃除してからでもいいじゃん。3日間お世話になるんだし」

露草は水沢を宥めるように口を開いた。綺麗好きの露草は良いよな、と思わず口を滑らせそうになった。


水沢も渋々了承し、早速お邪魔させてもらうことになった。

家の中は広い構造をしており、建築技術皆無の俺でも、良い材質を使っているということくらいは見抜けた。

休憩を挟んでいるものの、此処まで運転を務めてくださった深海のお父さんには、休んでもらうことで一致した。

大掛かりな掃除機は露草に任せ、窓拭きは水沢と深海、床拭きは何故か俺に決定し、掃除が開始されることになった。

また、深海の気障な台詞――少なくとも俺にはそう聞こえた――と共に提案されたのは、以下のようなことである。

つまり、女子陣に掃除をさせるなんて男の恥だ、ということであり、それは俺の他、水沢や露草も同意見だったようだ。


よって、男子4人で1時間にも及ぶ大掃除が終わった後は、程々に体力を消耗していた。正直、かなり疲れた。

その上、俺はこれから1人で夕食を作る手筈になっているのだ。こうなると、今朝の寝坊がどうしても悔やまれる。

ともあれ、何を言っても始まらないわけで、俺は水沢の「カレーが食べたい」という要望を受け入れる事になった―――



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