〜第11回 夕食〜
―――さて。ところで、カレーなんて此処最近、レトルトしか食べていないのだが。どうやって作るんだったか。
材料については、この別荘に来る途中に皆で買い物をしたから、心配はない。それなりに器具も揃えてある。
で、俺が今何処で何をしているのかと言えば、深海の別荘の台所にて、立ち往生しているところである。
腕捲りをして、材料を取り出したまでは良いが、考えてみれば、元々カレーなど作ったことがないのだ。
俺は慣れない手つきで、とりあえず野菜を洗ってから、ざく切りにしたのだが・・・細かい作り方がわからない。
「あの、大丈夫?」
後ろから心配そうな声がかかったので振り向くと、良心的且つ理想的な笑みを称えた、俺の救世主こと風上が立っていた。
「あー・・・微妙かな」
「じゃあ、少し手伝おうか? 私も料理は、あんまり上手くないんだけど」
この風上の厚意は、心の底から嬉しかった。正直、誰か手伝ってくれないかなぁ、と思っていたところだし。
俺と同じように腕捲りをした風上は、大きい鍋を手に取ると、サラダ油を大さじ1杯入れて、弱火で熱した。
「お肉、切ってくれる?」
「え、あぁ・・・わかった」
思わずその姿に見とれていた俺は、突然かかった風上の声に、情けなくも上擦った声を出してしまった。
俺は豚肉を適当な大きさに切り分けながら、こういうのってまるで新婚だな、と思い、顔が思わず綻んだ。
手際よく調理する風上は、皆はトランプをやっていること、自分は弱いのですぐに負けてしまうこと、を話した。
俺がおろおろしながらカレーを作っている間に、皆はトランプなんてしてたのか。全く、いい気なもんだ。
その後、学校でのことだとか、高校の進路をそろそろ考えないといけないね、的なことまで話が及んだ。
俺はこの時、この時間がずっと続けば良いのに・・・寧ろ、続いて欲しいと思った。いつかの屋上でのこと以上に。
「永峰君? 聞いてる?」
しまった。自分の世界に入りすぎて、風上の話を聞き逃してしまったようだ。
「あ、うん。聞いてる」
「嘘ー。今ちょっと聞いてなかったでしょ?」
バレバレですか。でもまぁ、始業式の時からは考えられないくらい打ち解けてるんじゃないか? 今の俺は。
それだけで、良かった。彼女が俺の隣で笑っていてくれれば、他に何もいらない――恋は盲目って、本当かもな。
「いやーあの・・・ごめん」
「あー、何笑ってるの? だから、カレーの隠し味に、ヨーグルトを少し入れると良いんだよ、って話」
少し怒ったような表情をして、すぐに微笑の表情に戻った――凄く可愛いんですけど、どうしてくれるんですか。
「・・・あぁ、そうだったね」
しかし、結局カレーのほとんどを風上に作ってもらってしまったわけだが。礼を言っておかないといけないな。
「あのさ、結局カレーのほとんどを作ってもらっちゃって・・・ありがとう」
すると、風上は俺が知る限り、初めて見る表情をした。驚きと照れの混ざったような、複雑な表情。
「良いって良いって。気にしないで。それより、出来たよ?」
そして、風上は芳しい匂いを発散させている、カレーの沢山つまった鍋を持ち上げた。
カレーの味は言うまでもなく、最高に美味かった。勿論、俺1人で作っていたら、こんな味は出せなかっただろう。
「うめぇ。こりゃあ、永峰1人じゃ出せない味だな。風上に手伝ってもらって、大正解だ」
・・・他人に言われると腹が立つが、水沢の言う通りなので、此処は黙っておこう。本当に正解な気がするしな。
「ところで、だ。これ食べたら少しして、肝試し大会やんね? 夏の夜と言えば、肝試しだろ」
にやにやと嫌な笑みを浮かべながら、水沢が此処に宣言してくれた。誰も賛成しないと高を括っていたのだが・・・。
「そうだな。それもいいかもしれない」
と、深海が同意しやがった。月野もうんうんと頷いているし、露草は傍観的立場で、どちらでもいいようだった。
こうなれば開催は明白で、水沢あたりに「ひょっとして永峰、怖いんじゃないだろうな」とも言われかねない。
故に、俺は調子の乗ってこんなことを口走ってしまった。もう少し後先を考えてからでも、良かっただろうに。
「よし。やるからには、やってやろうじゃないか。1番時間のかかった奴は、皿洗いでどうだ」―――
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