〜第9回 旅行〜
―――8月12日の朝。順調に夏休みは終了していき、もう残りは約半分となっていた。早い、早すぎる。
逆に宿題はたんまりと残っている。こんな状態で、果たして高校受験は大丈夫なのだろうかと疑問に思う。
さて。今日は深海が企画した旅行の日である。正直に言おう、寝坊した。一応、荷物などは詰めてあるが・・・。
むにゃむにゃ言いながらゆっくり目を覚まし、たるんだ気持ちのまま、いつものように時計の針を確認する。
11時15分。目を擦ってから、もう1度時計の針を見る。秒針が丁度1周し、11時16分に変わったところだった。
「・・・あぁぁぁあああ!?」
気がついたら時計の針は、11時を指していた。目覚ましなしで起きられると自負したのが失敗だったか。
俺は音速の如く着替えを済ませ、洗面所に移動して顔を洗い、冷蔵庫から適当に朝食になりそうなパンを取り出した。
深海や水沢はともかく、風上や月野を待たせるわけにはいかない。男として、それだけは絶対に避けなければならない。
パンを冷やしてあった麦茶で流し込み、洗面所に舞い戻ると、歯ブラシを手に取った。その後、トイレですっきりする。
此処までかかった時間は12分。深海の家までチャリを飛ばして15分。11時43分には着ける計算だ。
だが、思わぬところでタイムロスがあった。俺の母親による小言攻撃である。迷惑のないように注意しろ、とかな。
故に、家を出るのが俺の計算よりも遅くなってしまった。出かけ間際に、携帯を忘れていることに気付くし。
俺は頭の中で時間を逆算整理し、俺が最後に到着することにならないことを祈りつつ、荷物を背負って家を出た。
今日も暑くなりそうだとか、偶には太陽の奴も日光を加減しろだとか、どうでもいいことを考えつつ、チャリを飛ばす。
深海邸に息を切れ切れして到着したのは、俺が家を出てからきっかり15分後だった。つまり、午前11時49分。
破裂しそうな肺に手を当ててなんとか抑え、チャリに鍵を掛けると、エレベーターのボタンをぽちっと押した。
毎回思うのだが、高そうなマンションだ。深海はこの15階建てマンションの10階、1号室に住んでいる。
こういう時間のない時に限って、どういうわけか、エレベーターは鈍間な動きをしている気がしてならない。
手の袖で流れる汗を拭い、時計を確認する。11時52分。エレベーターが10階に着き、最も遠い1号室を目指す。
なんで深海は、1号室に住んでるんだろう。わざわざエレベーターから1番遠い場所を選ばなくても良いだろうに。
小さい門扉を開けて、少し躊躇してから、俺はインターホンを押した――何だか物凄く疲れた。朝は嫌いだ。
インターホンからは誰の声もかけられず、代わりに直接、ドアが開いた。学校で見慣れた深海の顔が覗いている。
「よう、遅かったな。もうお前以外は全員揃ってるんだ。まぁ、上がれよ」
やっぱり俺が最後ですか、そうですか。昼過ぎの約束な割りに、まだ正午前なんですけど。皆早起きだね、うん。
「あぁ。まぁ、何を着ていこうか迷ってな」
俺はそう言いながら、上がらせてもらった。自分でも下手な強がりだなと自覚済みなので、突っ込まないでほしい。
「その割りに、適当に選んだスタイルに見える。大方、寝坊でもしたんじゃないかと思っていたが」
鋭い。流石は深海だ。褒めてやる。だが俺は、それを通り雨の如くスルーし、深海の両親に挨拶していた。
リビングに通されると、深海の言っていた通りのメンバーが、思い思いの表情で談笑しているところだった。
俺が1人1人に、差別と偏見のないように装った挨拶をしていると、後からコップに麦茶を入れた深海が入ってきた。
深海はそれを俺に手渡すと、聞いてもいない説明を始めてくれた。理屈っぽ説明は、こいつの専売特許である。
深海の話によって、俺以外の面子は11時20分には全員揃っていたこと、12時20分には此処を出ることを告げられた。
俺はそれを、難しいオイラーの定理の如く無視し、深海に手渡された麦茶を飲み干した。冷たくて上手いね。
だがその直後、この俺も無視できない発言を、唐突に言った奴がいた。何を隠そう、水沢 信慈のことである。
「じゃあ、今日の夕食は、遅刻してきた永峰持ちってことで。良いよな、皆?」
ちょっと待て。何故そうなる。風上も月野も、何ニッコリして、手なんか振ってくれちゃってるんですか。
俺以外の5人の賛成により、あっけなく今日の夕食係を任されてしまった俺であった。何か、頭痛がしてきた・・・―――
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