〜第8回 休暇〜


―――8月5日。1学期が終わってから、既に約2週間の月日が過ぎていた。

この間の終業式には、結局ギリギリで間に合った。遅刻しなくて、本当に助かった。

当の永峰は、自分の部屋のベッドで横になっていた。宿題がかなり出されているが、やる気があまり出ず、まだ2つしか終わっていない。

夏休みが始まったばかりの当初の予定としては、とにかく宿我武者羅にでも宿題をさっさと終わらせ、夏休みを満喫するつもりでいたのだが・・・。


不意に、聞き慣れた着信音――これは俺のお気に入りの歌だ、最近飽きてきたけど――が響いた。同時に、携帯のディスプレイが発光する。

俺はベッドから起き上がろうともせずに、放り出していた自分の携帯に手を伸ばし、ディスプレイで誰からのものなのかを確認した。

深海だった。大よそ、特に予定の無い俺への皮肉りの電話かと思ったが、すぐに旅行の計画の事を思い出し、着信音が終わらないうちに出た。

「はい、もしもし」

「もしもし。永峰か。俺だ」

聞き慣れた、深海の声だ。相変わらず、冷静沈着な声を出している。たまに、この声を崩してみたくなるんだよなぁ、と俺は密かに思う。

「ん。旅行の計画が決まったのか?」

「あぁ、決まったよ。来週の8月12日、昼過ぎに俺の家に来てくれ。一応、3泊4日を予定してる。俺の家の場所、わかってるだろうな?」

「わかってるよ。正月には年賀状だって送ったし。8月12日の昼過ぎだな」

「まぁ、お前のことだから、大丈夫だとは思うけどな。ついでに、風上と月野も来てくれるってさ。水沢と、露草も来てくれるらしい」

「そうか。6人・・・か」

俺の胸は少し高鳴った。旅行に向けて、はっきりと楽しみだと思えてきたのだ。いや、元々楽しみではあったのだけれど、よい明確になったというかさ。

「あぁ。必要な荷物、そろえておけよ。研修の時のように、前日になって、急いで準備とかだったら、付き合いきれないからな」

「わかってるよ・・・本当にお節介が好きな奴だな、お前」

このお節介が長所でもあるのだが、たまにうるさい思えるんだな、これが。俺はわざと皮肉を込めて言ってやったが、深海は口調を変えなかった。

「お前みたいな奴が相手だからな、お節介しておかないと。風上みたいな性格なら、お節介しなくて済むんだが」

・・・マジでグサッとくるような事を平気で言うしな、深海って。恐らく深海は、特に悪いことを言ったとも思ってないんだろうけど。

「うるさいな。じゃあ、切るぞ。またその時に」

「あぁ。またな」

俺は苦笑しながら、電話を切った。荷物を用意して、母にも旅行のことを伝えなければならない。


俺は頭の中で母に伝えることと、必要な荷物を描きながら、リビングでせっせと家事をしている母に、旅行のことを話しに行く。

忙しそうな母の背中を見て、俺はふと、思う――母さんのことだ、また心配そうな顔をするんだろうな、きっと。

俺はその思考を一旦中断し、いつもの母の背中に声をかける。旅行のことを話すと、予想通り心配そうな顔をしたが、止めてくることはなかった。

まぁ、深海のことは一目置いてるし、信頼もしてるだろうからな。大体、もう中3、来春からは高校生なんだし、そう心配しなくても良いんだけど。

「じゃあ、そういうわけだから、よろしく。何かあったら、携帯でも何でもに連絡してくれれば良いから」

俺は母が頷くのを見てから、また自分の部屋に戻って、必要な荷物をまとめておくことにした。この休み中に俺の何かが変わる、そんな気がした―――



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