〜第14回 真意〜


―――「洸のこと、気になるんでしょ?」

しばらく歩いたあと、不意に月野が言った。今まで無言で歩いていたからか、俺は月野の表情に気圧された。

「・・・どうして、そんなこと聞くの?」

俺は思わず足を止め、数歩前で立ち止まった月野に向かって言った。

狼狽が顔に出ないようにするのが精一杯で、声が震えるのまで抑えることは出来なかった。

「気になるからよ。見ていればわかるわ。永峰君が洸を好きなんじゃないか、ってことくらい」

振り返ったその顔に、いつもの上品な笑顔はなかった。真顔で俺を見つめ返してくる。

「月野には敵わないな」

俺は首を振って、お手上げのポーズをした。此処まで言われて、否定できる状況ではなかった。

「正直ね、ちょっと洸のことが羨ましいなぁ、って思うの。永峰君に好かれるなんて、幸せものじゃない」

「それ、どういう意味?」

月野の真意が読み取れなかった。俺を褒めているのだとしても、一体何故急に――疑問が声となっていた。

「それは・・・ふふ、今は内緒」

そこでようやく、いつもの月野の明るい笑顔が戻った。心なしか、ホッとしたような気がする。

無意識に緊張していたのかもしれない。内緒と言うのは気になるが、いずれ知る機会もあるさ。

「そっか」

俺は止めていた足を再び動かし始めた。いつまでも留まっていたい場所ではない。

それからまた、他愛もないことを話しながら歩いた。――月野には敵わないな、本当に。


「水沢君と露草君、何処に行っちゃったんだろうね。もう緋絽子と永峰君、帰ってくるのに・・・」

隣で風上が何か言っている。風上の言葉が、まるで頭に入ってこなかった。

「深海君、どうしたの? なんだか、あまり顔色が良くないみたい・・・」

だからだろう、風上が訝しげに俺の顔を覗き込んできた。

「いや、なんでもないよ。大丈夫、何処も悪くない」

俺はわざとぶっきら棒に言った。心の動揺を、彼女に悟られたくなかった。

「それなら良いんだけど・・・あ、帰ってきた」

風上は、まだ心配そうに俺を見つめていたが、前方に目を向けると、明るい声色で言った。

俺もつられて顔を上げる。懐中電灯の光とともに、永峰と月野の影が暗闇に浮かんでいた。


「お帰り、緋絽子。大丈夫だった?」

「ただいま、洸。永峰君が面白いから、全然怖くなかったわ」

屈託の無い笑顔で迎える風上と、にこりと微笑む月野の姿は、見ていて癒される光景だった。

「彼女には好評じゃないか、永峰」

「どうやらそうらしい」

唇の端に笑みを浮かべ、深海が向き直った。俺は肩を竦めて、それに応じる。

「あいつら、まだ帰ってきてないのか。次なのに、何処で何をやってるんだか」

ふと水沢と露草が、まだ帰ってきていないことに気付いた。まさか、提案者が逃げたんじゃないだろうな。

「ああ。もしかしたら、先に別荘に戻ったのかもしれない。我々は退散することにしよう」

そう言って背を向けた深海は、風上と月野にその旨を伝えた。彼女たちも賛成らしい。


――同じ頃、墓地の最深部。そこに水沢と露草はいた。待ち惚けを喰らったと言っても良い。

「全然こないよ。先回りしたつもりが、用意に手間取ってる間に、もう終わっちゃったんじゃない?」

コンニャクを吊るした棒を持つ露草が、冷めた目付きで、白装束を被った水沢に囁いた。

「くそ、失敗したな。せっかくあいつらを驚かせてやろうと思ったのに、無駄骨かよ」

「やってられないよ。きっと皆、別荘に帰ったんだ」

「おい、待て。俺も帰るから、先に行くなよ」

露草が不満を露わにして歩き出したため、水沢は慌てて露草の後を追った。

2人が道に迷った挙句、ようやく別荘に辿り着いたのは、それから約1時間後のことだった。

先に別荘に戻っていた4人に笑いものにされた上、水沢が皿洗いを課せられたのは、言うまでもない―――



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