〜第16回 告白〜
―――壇上で、何かのお偉いさんらしい人が、延々と長話を続けている。今は卒業式の真っ只中だ。
どうしてこう、日本のお偉いさんは、何人もしゃしゃり出てきて、話をしたがるのだろう。
1人や2人ならやむを得ないと思うが、3人、4人と続くと、流石にうんざりする。
恐らく周りを見渡せば、真面目に聞いている生徒など、数えるほどしかいないだろう。
俺はそう思いながらも、我慢して目の前の中年男性に目を向けた。今日で俺も卒業、か。
卒業式が終わり、最後のホームルームが行われた。周りを見ると、涙を流している生徒もいた。
「・・・であるから、皆には立派な大人になってほしいと思っています」
最後だからか、教卓では我らの担任が、少々寂しさを滲ませた表情のまま話している。
「先生は皆のことを、これからも応援してるぞ。保護者の皆様、今までご理解・ご協力、ありがとうございました」
そして、最後のホームルームが終わった。ボタンや手紙を交換している生徒が、意外と多かった。
ようやく一仕事終え、肩の凝りをほぐしたいところだったが、俺にはもう1つやるべきことが残っている。
「いよいよ、だな。屋上に呼び出したんだろ? 頑張ってな」
「あぁ、さんきゅ。じゃあ、行ってくるよ」
話しかけてきた深海に礼を言い、俺は教室を出て足早に屋上へ向かった。
――そう、俺は風上を屋上へ呼び出していた。俺の3年間積み上げてきた、思いを伝えるために。
卒業式が始まる少し前、俺は月野と話していた風上に近付き、放課後、屋上に来て欲しいと伝えた。
風上は一瞬表情を止めた後、頷いた。特に驚いた様子もなかったから、薄々気付いてはいたのだろう。
“頑張って”とでも言うように、ウインクを寄越してきた月野の表情の方が、妙に印象に残った。
そんなことを考えていたからか、屋上へ続く扉まで来るのに、そう時間はかからなかった。
俺はゆっくりと2回深呼吸をし、取っ手をくるりと回した。低い音と共に、扉が開く。
風上は既に来ていた。フェンスに背を預け、俯いている。表情まではよく見えなかった。
俺が歩み寄ると、彼女は顔を上げた。足音で気付いたのだろう。真面目な顔をしていた。
「・・・待たせてごめん。大事な話があったんだ」
「うん・・・何?」
数十秒の沈黙を破り、俺は口を開いた。微かに声が震えたが、そんなことはどうでもよかった。
「ずっと前から・・・正確に言うと、入学式で君を見た時から、ずっと好きだった」
彼女は少し目を見開いたけれど、沈黙を守った。だから、俺は唇を舐めて続けた。
「この3年間色々なことがあったけど、君と話してる時間が1番幸せだった。俺と、付き合って欲しい」
言ってから、風上の表情を窺う。彼女は少し言い難そうな表情のまま、言葉を紡いだ。
「ごめんなさい。永峰君のことは嫌いじゃないし、尊敬もしてるんだけど・・・付き合うことは出来ないの」
本当にすまなそうな表情で、頭まで下げられてしまえば、最早言うべきことも思いつかない。
「そっか・・・その、理由を聞いてもいいかな」
「うん・・・他に好きな人がいるから。いつか此処でお昼を食べた時に、言ったよね」
そういえば、そんなこともあった。確かあの時は、深海が風上に聞いたんだった。
「そういえば、そうだったね・・・じゃあ、その人と上手く行くと良いね」
「うん・・・ありがとう。永峰君の気持ちは嬉しかったよ。あの、永峰君も高校、頑張ってね」
にこりと微笑み、風上は手を差し出してきた。俺はその手に自分の手を重ね、言った。
「こっちこそ、ありがとう。そっちも頑張って。じゃあ、またいつか」
そのまま風上を引き寄せて、抱き締めたい衝動を抑え込み、俺は無理矢理笑顔を作った。
「うん・・・元気でね」
繋いでいた手を離した後、風上は手を振って屋上を出て行った。
――終わった。今すべきことの、全てが。終わってみれば、短い3年間だったような気がした。
俺はフェンスに近付くと、背を向けて座り込んだ。長い溜息をつき、朝にも見た青空を見上げる。
太陽は、もう真上にあった。告白したことに後悔はない、ないが――落胆していることは否めなかった。
そしてふと、さっき風上が言った言葉が甦った――他に好きな人がいるから――誰のことなんだろう。
俺は首を振り、考えるのをやめた。考えても仕方のないことだった。もう、終わったことだ。
風上のことは、もう忘れた方が良いのかもしれない。でも、簡単に忘れることは出来そうになかった―――
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