〜第17回 手紙〜


―――永峰たちが卒業してから2週間が過ぎ、3月の半ば。桜の花も、もうすぐ見頃を迎える。

4月から高校生であるという自覚のないまま、永峰はなんの抑揚もない春休みを送っていた。

中学校を卒業してから、過去の思い出の儚さ、美しさに気が付き、感傷的な気分に陥った。

3年間の思い出の数々、卒業式、そして風上に告白した時のこと――あれで良かったのだろうか。


永峰と同じく、そのまま高等部への進学を選んだのは、例の別荘のメンバーの中では水沢だけだった。

他の4人――深海、風上、月野、露草――は別々の道を選んだ。何処の高校かは覚えていない。

今頃皆は、どうしているのかな――そんなことを考えながら、昨夜は床に就いたのだった。


「峠、いつまで寝てるの? そろそろ起きなさい」

母親の声で目が覚めた。目の前にはいないから、恐らくリビングから声をかけたのだろう。

時計を見ると、午前11時を回っていた。カーテンを開けると、暖かい日光が降り注ぐ。


「おはよう。深海君から手紙が来てたわよ」

寝間着姿のままリビングへ行ってみると、テレビのニュース番組を見ていた母が、顔を上げて言った。

「おはよう。深海から? 何だろう・・・」

受け取った手紙は、やけに分厚い茶封筒だった。かなりの枚数の便箋が、中に入っているのだろう。

表には大きく“永峰 峠様”と書かれていた。わざわざ手紙を書く理由が、思い当たらなかった。


永峰は、顔を洗ってから自分の部屋に戻ると、ベッドに腰掛けて、早速手紙を開いた。

1枚目の便箋には、懐かしい深海の筆跡で、5行分だけ次のように書かれていた。

「久しぶり。突然このような手紙を書いて、すまないと思っている。俺は君に謝罪しなければならない。全てはこの後の手紙を読んでくれればわかる」

――何だこれ・・・どういう意味だ? 深海に謝られる理由なんてないはずだった。

「だが、俺から読んでくれとはとても言えない。いや、言う権利が無い。もし読んでくれるなら、僕たちを裁いて欲しい」

書き始めから変だった。深海らしくない。そして、何より引っかかるのは、この――僕たち。


不意に、心の中に暗い感情が押し寄せてきた。嫌な予感などというレベルではなかった。

心が警鐘を発していた。この手紙は読むべきものではない――だが、何の解決にもならない。

瞼の裏に甦る深海の表情。此処最近あいつは、暗く、悲しげで、悩ましげな目の色をしていた。

永峰は、自分の想像する悪夢が的中していないことを願い、意を決して2枚目の便箋を広げた。

2枚目以降の便箋は、深海の字ともう1人の字で、びっしりと埋め尽くされていた―――



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