〜第18回 裏切り〜
―――30分後。この手紙を読み終えた永峰は、すぐには言葉が出てこなかった。
ただ、目眩がした、涙が出た、驚き、怒り、そして絶望した。
手紙の続きは、次のようなものだった。
「深海君、怒らないでください。私がこの手紙を書くには、随分勇気が必要でした。
私は何度書きかけて、貴方を不愉快にさせまいと思い、止めたかわかりません。
貴方は私を怒り、手紙を貰っても困ると仰って、軽蔑するかもしれない。私はそれをを恐れていました。
だけど、ずっとこのままの気持ちでいる事もできなかった。だから、書くことにしました。
私の一生がかかっていると思ったから。
正直に言えば、私は貴方が恋しくて恋しくてたまらないんです。貴方を一番尊敬し、これからも思い続ける自信があります。初めて会った時からそうだったから。
永峰君の事も尊敬はしているし、いい人だと思います。私には、勿体無いのではないかとも思います。
卒業式の日に、永峰君から告白されたけれど、きっと永峰君は貴方に相談していたのでしょう。
残念ですが、私は永峰君とは、死んでもお付き合いする気はありません。この事を貴方に伝えておきたかった。どうしても、永峰君の近くに長い時間いられないんです。
でも、永峰君は私がいなくても、立派になれる人だと思います。彼が私を好きである以上に、私も貴方を愛しています。
わかってほしい。この中学校生活の3年間、ずっと思ってきた事でした。
でも、口に出して言う事が出来なかったから、こうして今になって、手紙を書きました。
こんな私をどうか許してください。どんな短い返事でも構いません、お返事待っています」
「手紙、届きました。
正直言うと、君の手紙を受け取らない方が良かったし、そうあってほしいと思った。受け取っても返事をしない方が良かったのかもしれないけれど、俺は書きます。
永峰の事をもう1度考えて欲しい。彼の魂を、彼の心を見て欲しい。親友だから褒めるのではない、彼は俺も尊敬している存在なんだ。そんな人に恋されて君は幸せだ。
そして、俺は君の事を永峰無しで考える事はできない。俺からもう1度頼みます。永峰を愛して、俺を忘れてくれ。俺を信じて、彼をもう1度見直して欲しい」
「お手紙ありがとう。でも、深海君のお願いだとしても、そればかりは出来ません。貴方がこの世にいて、この広い世界の中で出会えて私は嬉しい。
私が永峰君と付き合えないのが、そんなに罪になるんでしょうか。そんな事、あるはずがない。永峰君が私に告白してくれたのは、ありがたいけれど、迷惑でした。
とにかく、どんな事があっても、私は深海君以外、特に永峰君と付き合う事は出来ません。それが良い事なのか、悪い事なのかはわからないけれど、事実なんです。
私は黙って、運命に身を任せることなんて出来ません。一生の勇気を奮い起こして、貴方の心の扉を開きます。
この気持ちを分かってほしい。私を1つの独立した女として見てほしい。永峰君の事は忘れて。私は私です。
貴方の気持ちを正直に書いて欲しい。諦めなければいけない、その時には、諦めるから、お願いします」
「君の言おうとする事は、全て俺にはわかりきっていた。
君が俺に好意を持っているのがわかったから、俺はわざと避けたこともあった。俺は君に好意を持たれることで、永峰との友情が壊れることを恐れていた。
俺がいてはいけないと思った。俺がいなければ、当然君は永峰を好きになってくれて、俺のことなんて忘れてくれると思っていた。俺はそれを望んでいた。
永峰と君が、恋人にさえなってくれれば、俺のことなんて気にならなくなるはずだった。俺は今、自分の行きたかった高校へ入学するための準備をしている。
そして、少しだけ君達の事を忘れていた所だった。勉強して、本を読んで、テレビを見て、散歩をして、夜の星空を眺めて、パソコンをして・・・
俺にはまだ、しなければならない事が、たくさんあるんだ。だから、恋をしている暇はない。永峰は寂しそうだ。
だから、せめて君にだけは、永峰に親切にしてやってほしい。でないと、彼は何をしでかすかわからない。
強い精神力はあるから、まさか自殺はしないと思うけれど、一生孤独と闘わなければならないだろう。
俺は君を憎んではいないが、君が永峰に冷淡な態度を見せたり、聞いたりすると、嫌な気持ちになる。君は俺を、理想化しすぎているんだ。
君が永峰の魂に触れれば、きっと好意を持つと思う。それが愛に変わるという事もあるはずだ。彼の価値は君の考えている以上に、俺以上に凄いものだと思う。
だから、彼に親切にしてやって、彼を愛してやって欲しい。もし君が俺と付き合ったと仮定したとしても、君にとってそれは幸福ではないはずだから」
「お手紙、見ました。深海君は嘘をついています。私にはわかります。
貴方こそ、私に相応しいただ1人の人間です。私の良いところを、そのまま受け止めてほしい。貴方は私に、冷淡に装っているでしょう。
永峰君のことを書くのは気が進まないけれど、永峰君は私を理想化して、勝手に賛美しています。永峰君は意志の強い人だから、私がいなくても平気だと思います。
仮に私が、永峰君と付き合ったとしても、私は幸福にならないと思います。貴方の方が輝いて見える。そんな気持ちで付き合っても、永峰君に失礼なだけです。
深海君は、無理に友情を奮い起こして、私を払い除けようとしています。私は貴方の役に立ち、生きていきたい。それが私の望みです。
永峰君は私が深海君と付き合えば、もっと強く生きていく人だと思う。だから、深海君は私と付き合ってほしい。私の気持ちを、友情で砕かないでほしい。
永峰君には出来るだけ親切にして、尊敬もします。だけど、それ以上の事は出来ない。それを罪だとは思いません。お願いします」
「俺は、何と返事を出したら良いのかわからない。永峰に相談したいが、そんなこと出来るわけがない。彼はあまりに気の毒だ。
俺には親友の恋している人を横取りには出来ない。俺をあれほど頼って、尊敬し、信じきっている友を、裏切るような事はしたくない。それは友を売ることだ。
どうして君は、そこまで俺を好きになってくれたのだろう。俺が永峰に対する配慮から、君に媚びなかったせいで、買いかぶったのではないだろうか?
俺は永峰のことがなければ、彼より君に媚びたかもしれない。俺はこの手紙を、出そうか出すまいか迷った。だが、出そうと思う。永峰、許して欲しい」
「ありがとう。私は深海君の手紙を読んで、どれほど舞い上がったかわからない。本当に嬉しい。貴方と作ってきた思い出を、これからも作れるかもしれない。
深海君の別荘に行った時にした、肝試し。とても楽しかった。ドキドキして、あまり喋れなかったけれど、肝試しの後、深海君と普通に話せるようになった。
貴方が永峰君の為に、冷静に振舞おうと努力していたのは、私にもわかっていました。それが強くなる度に、私への愛を感じて、信じる事が出来ました。
私に媚びまいと、自分に対して怒っている。でも私にも、密かに労わってくれていましたね。でも、貴方の行動1つ1つに感じていました。
貴方があの高校を第一志望にしたことが、腑に落ちなかった。でも、今ならわかります。
永峰君の事をたくさん褒めていたのも、それは全て、永峰君に対する配慮だったんですね。今でも深海君は、永峰君を心配している。
私は深海君の義理の固さに尊敬します。永峰君なら私なんかより、もっとぴったりな人がきっといます。私と付き合わなくて、良かったと思うに決まっています。
それに、私は永峰君の告白が、心に響いてこなかった。深海君、貴方は私を捨てる気かもしれないけれど、私は貴方のところへ行くのが自然だと思います。
貴方を失うことなんて、今の私には到底考えられません。私は貴方の為だけに生きたい。私は貴方の物です。将来もそうであり続けるはずです。
だから、私を捨てないで。私を幸せにしてください」―――
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