〜第19回 絶望〜
―――「君の手紙を見て、俺は次のような文章を書いた。 これが俺の気持ちだと思って、文章にある感情を察して欲しい。
俺は2つの間に立ち、困惑していた。親友と、親友の好きな人。
俺はどちらかを、失わなければならない。どちらも得ることは出来なかった。
俺は友のことを考えてきた。そして俺は、出来るだけ、あの人の価値を低く見ようと努力してきた。俺があの人を好きになっては、いけなかったから。
しかし、正直に言えば、あの人を好きになり、のめりこんでいったのは、俺の方だったのかもしれない。ただの可愛らしい、同級生だと見てきたはずなのに。
友から恋をしていると聞かされた時、その女でなければ良いと思った。しかし、予感は的中した。自分はその女を意識していたが、まだそう酷くは思っていなかった。
だから、まだ抑えられると思った。だが、親友がその女を褒める。俺に何か、暗示に来た気がした。出来るだけ冷淡にその女に接し、好きにならないよう注意してきた。
ある夏の日、彼女を別荘に誘った。勿論、親友と良い雰囲気にさせる為だ。この時、俺はその注意がモヤモヤして力のなくなるのを感じ、このままではいけないと考えた。
だから、極力その女を避けるようにしようと思った。だが、上手くそれが出来ない。
第一、友が俺にアドバイスを求めたり、代わりに話してくれと言うから、たまらない。
問題は、肝試しでの出来事だった。運悪く・・・いや、今考えると良かったのか悪かったのかわからないが、俺と彼女がペアになってしまった。きっと親友は、俺を憎んだだろう。
俺は一種の、嫉妬と自己嫌悪に陥った。何故自分が、この人を好きになることを、禁じられなければならないのだろうか。彼女に無頓着になりたい。親友の恋人として見たい。
そう思ったけれど、俺は無意識に幸福を感じてしまった。
友から奪ってしまうのが、普通なのではないかとも考えるようになった。
それでも、友を裏切れなかった俺は、友が彼女に告白するまでは、絶対に協力しようと思った。実際、高校はバラバラになるのがわかったから、解放されると思った。
それで俺は、友の為に頑張ったが、結果的には返って、彼女に俺を好感的に見せてしまったのかもしれない。とにかく、その女が友を愛してくれれば、問題はなかった。
運命とは皮肉な物で、彼女は俺を見ると顔を赤くして、ぎこちなくした。俺は意識的にそれを拒み、友との務めを果たそうとした。だが、危なくなることもあった。
高校では絶対に、この2人から去ろうと思った。遠くの高校を選んで、会えないようにしようと思った。そうすれば、彼女は友を愛してくれないとも限らない。
俺はそれを、実行に移した。まだ俺は、彼女がいなくても生きていける。だが、友には酷い打撃だろう。友は前々から、俺に恋を打ち明け、頼りきっていた。
そこまで信頼して、尊敬されている友を裏切ることは、俺には出来なかった。友が死んでくれたら・・・そう思って、自分の考えに驚いたことも、全くなかったとは言えない。
いつしかその女の事を、日常の生活から切り離せなくなった。それでも卒業して、休みに入って、少しは忘れられるはずだった。勿論、たまに寂しくなる時もあった。
とにかく、彼女を忘れることが出来るはずだった。
しかし、彼女からの手紙が、俺を現実へ戻した。手紙が止むことはなかった。
その手紙には友を嫌い、自分に好意を持ち続けている事が記されていた。
それでも、俺は戦い続けた。冷淡な手紙を送ってから、後悔することもあった。
友を怨みたくなる時もあり、謝りたくなる時もあった。もう勝手にしろ、どうにでもなってしまえ、友には今まで協力してきたじゃないか、と思ってもみた。
そして遂には、卒業アルバムが見たくなり、彼女との思い出が甦ってしまう。捨てようかとも考えたが、実行することは出来なかった。それに、捨てる勇気もなかった。
段々彼女を失うのが怖くなり、辛くなり、耐えられなくなってきた。もう万事休すか、と思った。罪なら罪で、仕方がない。でも友を思うと、同情しないわけにはいかない。
今回の事で、友は本当に鍛えられると同時に、絶望を味わうことになるだろう。
友が彼女を失ったとしても、自棄を起こしたりせず、自分の道を切り開いてくれると、俺は信じている。それに、もう俺は彼女を失うわけには行かない。
互いに愛し合ってしまった。拒絶しても、意識して拒んでも、手に入ってしまった。俺の傍には、既に君という天使がいる。俺は全世界を失っても、もう君を失えない」
「深海君のお手紙を見て、本当に私は驚喜しました。ありがとう、本当に嬉しい。
私はなんて幸せ者なんでしょう。近いうちに貴方に会いに行きます。
永峰君だって、今に私のことなんて忘れるから、気にしなくて良いです。
貴方以外の人には、愛されたくない。もう無我夢中で、本当に嬉しいです。
本当に、貴方みたいな人と出会えて良かった。神様にも、お礼がしたい。
文章が変になっていても、許してください。
嬉しくて嬉しくて、仕方がないです。ありがとう、ありがとう」
永峰には、非常なる絶望の宣告だった。
そして、一番下の最後の手紙――それに、彼は目を移した。
「永峰へ。
俺は2人の手紙のコピーを、君に送る。君の面前に、事実であるそれをさしつける。
俺は君の神経を労わって、この2人の手紙を書き直そうかと思った。
しかし、返ってそれは、君を侮辱することになるかもしれないので、止めることにした。
俺は君を尊敬し、信頼している。だから此処では、何も言い訳しないつもりだ。
いや、言い訳なら既に見た通りだ。この手紙を読んで、君は孤独に打ち勝ち、起き上がってくれると信じている。また俺は、君につまらぬ同情はしない。
俺は冷酷な裏切り者に映るかもしれない。でも俺は、ただ事実を言う。これが運命だと思って、俺は受け入れる。今は恐怖と謝罪の気持ちでいっぱいだよ。
ただ君に、謝りたい。今更許しを請うような事はしない。それはあまりにも、虫が良すぎることだ。君は、とるようにとってくれるだろう。事実は以上である。
かくして、俺は風上さんと付き合い、或いはそれ以上の関係になるかもしれない。俺たちは君に裁かれる事については、何も言わない。勿論、裁きは受け入れる。
俺たちから、君は慰められたり、尊敬されたりされるのは不快かもしれない。いや、既に不快は充分与えすぎた。今になって遠慮するのは、おかしなことなのかもしれない。
ただただ、すまないとは思っている。だから君が、立派な日本の誇り高き人物となり、君に幸福が訪れる事を、遠くから信じ、また祈っているよ」―――
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