〜第3回 出発〜


―――4月下旬某日、今日はほとんどの皆が楽しみにしている行事の一つ、日光研修に出発する日だ。今日と明日の2泊3日は、日光で過ごす事になる。

口元を押さえながら欠伸をしている永峰は、丁度バスに乗る前の先生の話を聞いていた。もとい、聞き流していたと言っても過言ではない。

先生の話を聞き流していると、隣で体育座りをしていた深海が肘で、俺を突いてきた。俺はさも眠そうに、ゆっくりと深海を見る。実際、眠いんだけど。

「やけに眠そうだな。眠れなかったのか?」

「あぁ、まあちょっとな。これくらい平気だけど」

深海は小声で指摘してくる。俺の欠伸、やっぱりバレてたか。昔から妙なところに、勘の良い奴だ。深海は表情を変えずに続けて俺に言った。

「まるで遠足に行く前日に、はしゃぎ過ぎて眠れない子供だな」

「なっ、なんだと! お前は一言多いんだよ!」

深海が小バカにしたように言うものだから、つい俺は大きな声で反論してしまった。後の祭り、話をしていた先生が俺を睨みながら言う。

「おい永峰、聞いているのか。静かにしなさい」

「・・・すいません」

俺が仕方なく謝ると、先生は少しして話に戻った。深海を横目で見ると、ニヤニヤと笑みを称えたまま、軽く頭を何度か横に振った。

全く、お前が話しかけてきたせいで俺が怒られたじゃないか。おまけに、俺だけ怒られるし。俺は内心そう思ったものの、口を開く事はできなかった。

これ以上、出発前にテンションが下がるのは宜しくない。周りは俺を見て、クスクス笑ってるし。それからまた数分して、先生の話が終わる。


先生の誘導を受けながらバスに乗り込んだ俺達は、適当に席に座った。先生達もそこは考慮したのか、3年生なので好きなように座らせてくれた。

バスはクラスごとだから、計3台で行くことになる。研修や旅行で使っている観光会社のバスでは、うちの学校はお得意様だと何処かで耳にした。

バスに乗り込み周りに目を配ると、深海は何を思ったのか、先に席に座って俺を手招きしている。後ろの席に座っているのは・・・風上と月野か。

絶対何か企んでいるな、と思いつつ俺は深海に感謝した。前の席には、水沢や露草と言った2年生の時から交流のある者がいる。話題には困らなそうだ。

「深海、お前何か企んでないだろうな」

「何のことだ? 風上とお前をくっつけようなんて思ってないぞ」

俺は言ってやったが、逆に慌てる羽目になった。やっぱりコイツ、そういうことを企んでいやがったか――っていうか、デカイんだよ、声が!

「俺達の仲じゃないか、気にするなよ。大体、お前は思っていることが表情に出やすいよ。狼狽が顔に出てる」

「・・・あ、う、うるさいな。静かにしろよ、聞こえるだろう」

顔に出やすいのは仕方がない。深海が俺の心臓に悪いようなことを、デカイ声で言うのが悪い。そういえば、俺ってそんなに狼狽してるのか?

いや、それ以前になんで深海は、俺が風上に気があるってことを知ってるんだ?
全く、何処まで勘が良いんだか。此処まで来ると、逆に呆れるな。

そうこうしている内に、アナウンスが流れる。バスガイドさんの声だ。と、同時にバスのエンジン音がし、車内に軽い揺れが走った。出発するらしい。

「えー、本日は当会社をご利用頂きまして、誠にありがとうございます。私バスガイドを努めさせて頂きます・・・」

前方、運転席の近くで身なりを整えた女性が見える。バスガイドという仕事も結構大変だな、なんてちょっと場違いなことを考えてしまった。

バスはそれに合わせるように、日光に向けて学校を出発する。窓の外に目を向ければ、周りの景色が見慣れたものから、変わっていくのがわかる。

その後は、バスガイドさんの話を聞きながら隣の深海と喋った。日光までは、バスで確実に2時間はかかるので、その間は自由時間と言って良い。

俺は気楽に変わっていく景色を眺めながら、こうしてクラスメートと話しているのも良いな、と思う。先生もいるが、多少は大目に見てくれるだろう。

そして俺が予想していた通り、俺に新たな展開が待ち受けていた。深海の作戦・・・と呼んで良いならば、それが決行されたからだ―――



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