〜第5回 研修〜


―――それから更に2週間が過ぎた、5月半ば。現在は丁度4時間目、数学の授業の真っ最中だ。腹も減って来る上に、数学ときている。

左から2列目、1番後ろの席で教科書を立てて寝そべっているのは、永峰だった。授業があまり耳に入って来ていないし、数学はややこしい問題ばかり。

先生が黒板にひたすら、練習問題の解答を教科書を見ながら説明しているが、わかったのかわかっていないのか、自分でもわからないと来ている。

永峰は頭だけ左にある窓の方角に向け、見慣れた景色を眺めた。そうしながら、先日の研修について回想していた。はっきり言って、拍子抜けだった。

楽しかったと言えば楽しかったし、良い思い出になったかと言えば、なったと言える。しかし、それでだけでは前の2年間と同じだ。新しいことがない。

まぁ、否定している割りに結構楽しんでいたのかもしれないけど。


その時、俺に先生から声がかかった。どうやら、先生直々のご指名らしい。

「永峰ー。授業ちゃんと聞いてるか? 此処の問2、解答を言って」

「ぁ、えっと・・・」

しまった、これは応用問題じゃないか。授業を聞いてなかったから、わからねえ・・・。うわぁ、周りの視線がチクチク痛いぞ、これ。

「・・・どうした? まずは此処がこうで、こうなるんだ。次の式はわかるか?」

「その・・・わかりません」

先生、今度は授業を聞くだけは聞くから勘弁してください。っていうか、追い討ちかけるのやめて・・・今の俺じゃあ、それはわかりませんよ。

「ちゃんと聞いてないと、わからなくなるぞー。此処はこうだから、こうなるんだ。此処はわかるな? 他の奴も他人事ではダメだからな?」

先生はようやく俺から視線を外し、黒板に向き直った。疲れるし、無意識のうちに溜息が・・・。


その時、隣の席に鎮座していた水沢が、小声で話しかけてきた。

「お前も災難だな。ま、気を落とすなって、あれ俺もよくわかんなかったし。

「お前と一緒にするなよ。まぁ、なんでも良いか。兎に角、寝かせてくれ」

俺は眉間に皺を寄せながら、水沢を見遣り言ってやった。

兎に角、なんだか気が重い。体に鉄でも入っているんじゃないかと思うくらいだ。眠りたかった。

「おい、授業中だろ、寝るなよ。あ、そうだ。深海がな、数学の時間が終わったら、すぐに屋上に来いって言ってたぞ。伝言は伝えたからな、行けよ?」

「深海が? あぁ・・・わかったよ」

俺は肩を竦めながら、少し疑問が浮かぶ。屋上は普段立ち入り禁止になっている。校則は結構黙って守っている深海が、屋上で何の用だろうか。

水沢に軽く返事を返し、黒板の左上にある時計に視線を走らせた。もうすぐ授業が終わる。早く終わってくれ、頭がパンクする前に。


――ダメだな、俺。このまま行けば、成績が下がるのは既定事項なんじゃないか?

俺はゆっくり深呼吸をし、心を落ち着けた。いくらかは、落ち着いたような気がする。

その後、授業の終わりを告げるチャイムを聞いた俺は、号令もそこそこに教室を飛び出し、購買に走ってサンドイッチとおにぎりを1つずつ買った。

余談だが、このサンドイッチとおにぎりの組み合わせはかなりいける。

しかしながら、購買は1階の端、屋上は5階だ。遠い。急いでも5分はかかる。

更に、はやる気持ちで急いだから、余計に息切れしてしまった。もう1度気分を落ち着けようと、ゆっくり深呼吸をし、俺は屋上への扉を開いた―――



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