〜第6回 屋上〜
―――昼休みの屋上。永峰は扉を開けるとフェンスにゆっくりと歩み寄り、下を見下ろす。
広がる景色を見ていると、自然に顔が綻んでくるから不思議だ。
中学1年生の時から、ずっと見てきた景色。そして、見下ろした校舎。数ヶ月後には、もう卒業だ――俺は少しでも成長しただろうか?
柄でもなくしんみりと永峰は、ふっと息を吐きながらフェンスを離れ、近くの丁度良い高さの段差に腰を下ろした。まだ深海は来ていなかった。
十指を組み、傍らにサンドイッチとおにぎりの入った袋を置いた永峰は、物思いに耽る。
あの深海が改まって何の話があるのだろう? しかも、屋上で。
永峰が物思いに耽っている時間は、そう長くはなかった。
というのも、3分もしないうちに、深海が屋上に上がってきたからだ――風上を後ろに連れて。
「深海お前どういう・・・」
「よぉ。ん、どうした? 固まってるぞ」
その2人を見た瞬間、永峰は目を見開き硬直していた。話があるということだが、風上を連れてきたのは予想外だったからだ。嫌な予感がした。
「あ、当たり前だろ・・・な、なんで風上を連れてきたんだ」
「あ、やっぱり私、邪魔だったかな? 深海君にも、そう言ったんだけど・・・」
困ったような顔をして俺を見る風上に、俺は戸惑った。この言い方はマズかったよな・・・ダメだ、邪魔だとかは思ってない。否定しなくては。
「あ、いや、その・・・全然邪魔ではないけど、あの、想定外だったから」
その様子を見てにやりと笑う深海に、永峰が横目で睨む。
――まったく、どうしてくれるんだ。すっかりどもってしまった上、風上に勘違いされちまった。
「で、話って何だよ? もったいぶらずに早く言えよな」
「まぁ、そう焦るなよ。腹減ったろ? 風上、座りなよ。3人で飯でも食おうぜ」
「ぇ? あ、うん」
風上が控え気味に頷くのを見て、俺は眉間に皺を寄せながら、渋々と頷いた。実際、もったいぶられるのは気に入らないのだが、仕方がない。
それからしばらくの間は、先日の研修の時のように――あそこまでは盛り上がらなかったけど――他愛もないことを話して笑った。こういうのも悪くないかな。
「そういえばさ、風上って好きな人いるの?」
「ブハッ・・・ゲホッ、ケホッ・・・」
と、不意に深海が風上に向かって言った。
深海に聞かれた当の風上は、数秒固まって顔を赤らめ、下を向いてしまった――なんてこと聞くんだ、バカ深海・・・。
「・・・いる、よ」
「ふむ・・・そっか。大丈夫、風上は可愛いから、絶対上手く行くって」
思わずジュースが引っかかっちまったじゃねぇか・・・ってマジっすか!?
俺は胸にガンッと殴られたような衝撃と、心臓が一蹴されたような感覚を覚える。
ていうか、深海は何言ってんだよ? 風上の視線、泳いでるじゃねぇか。顔赤いじゃねぇか。
俺は深海の行動1つ1つの真意が、まったく読み取れなかった。
「おい、深海お前何を・・・」
「何か異議でもあるのか」
深海に真剣な表情でそう言われると、押し黙ってしまう。
確かにその、照れたような仕草は可愛いと思う。俺は風上に好きな人がいるのか気になっていた。
しかし、話ってのはなんだ? 察しろってことか? 風上の好きな奴って、一体誰なんだよ?
様々な思いが一気に押し寄せ、俺は頭を抱えて黙り込んだ。
と、その時校内に鐘の音が響いた。昼休み終了の鐘だ。10分後に5時間目の授業が始まる予定になっている。
昼食は既に食べ終えているが、すっきりしなかった。
「さて、じゃあ教室に戻ろうか。5時間目の授業が始まるし。先生達に俺らが此処にいるのバレると、うるさいだろう?」
「うん、そうだね」
「あぁ・・・」
深海が言いながらさっき食べ終えた昼食の袋とゴミを手に立ち上がり、風上もそれに倣う。俺はもやもやした心を無理矢理奥に押し留める事にした。
「よし、また一生に飯食おうな。3人でさ!」
2人を交互に見ると、笑って頷いてくれる。この笑顔がいつまでも続けば良いのに・・・そう思いながら俺は、いや、俺たちは屋上を後にした―――
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