その後、鈴木教諭が戻ってきたため、すぐにショートホームルームが始まり、俺たちはいいタイミングでクラスメートたちの好奇の目から逃れることが出来た。
最後の最後まで鈴木教諭の話を聞き流しながら、俺はベストオブフレンド、司馬のことを考えていた。奴はつい一昨日、某一流首都大学に次ぐ偏差値の国立大学を受験した。
受験の数日前、普段なら爽やかスマイルを崩すことのない司馬が、疲弊した表情を隠し切れていなかったくらいだから、ようやく第一志望大学の試験を終えてホッとしていることだろう。結果発表は明日の卒業式の更に五日後だからもう少し先だが、俺は奴の合格を確信している。
医者を志すようになった司馬は今年度に入ってから理系クラスに配属になり、俺たち私立文系組と机を同じくすることはなくなった。それからというもの日が暮れるまで、いや、日が暮れても図書館や予備校に篭って勉強し続けていたからな。一日十五時間くらいはザラだったんじゃなかろうか。当然夏を過ぎた辺りから、会話はおろか廊下で出くわすようなこともほとんどなくなっていた。
だが司馬は司馬なりに、俺たちや初音さんのことを考えていたんだろう。週に一度は何の用もないのに電話をかけてきた。ともかく奴の努力を知っている俺は、合格を本人以上に確信していた。
その他のメンバーの進路だが、俺と望はいわゆる私立文系のBランク大学に進学が決まっている。
望は日頃から暇さえあれば勉強していたし、受験の天王山たる夏休みには司馬と同じくらい机に向かっていたようだから、寧ろAランクレベルの大学に行くべきだったのだ。しかし結局、授業料免除というとんでもない特典が付いてくるBランク大学に、望は進学を決めた。
「お父さんとお母さんに親孝行してあげたいしっ」
などとその理由を口にした特待生が俺の幼馴染でしかも彼女だなんて、明日恨まれて誰かに刺されても文句を言えないような気分になってくる。
とは言え、望が口にした理由を全て鵜呑みにしているわけではない。相応の学力もないくせに、根拠もなく高望みした挙句、体調不良で最悪の受験状態にあった俺は、実は最後の最後に受験した大学以外は全部落ちていた。浪人を覚悟してヤケクソで臨んだラストチャンスが、どうにか功を奏したわけだ。いつもならぶつくさ文句を言っていた神様にも、あの時ばかりは本当に感謝したね。
まぁそんな経緯でBランク大学に滑り込んだ俺だが、特待生という特典付きではあっても、いくらでも選択肢があった望が俺と同じ大学を進学先に選んだんだから、含むところがあると思うのが普通だろう。もちろん望のそういう気持ちはとてもありがたいし、同じ大学に行けることは本当に喜ばしい。
初音さんは既に希望通り、音楽系の専門学校に進学が決まっている。また五月は意外にも薬剤師を目指していたことが判明し、その時には既に司馬と同じく理系クラスに配属になっていた。首尾よく有名私立大に進学することになったそうだから、これで全員がハッピーエンド一直線ってところかな。
あぁ、どうでも良かったので思い出しもしなかったが、五十嵐なら俺たちと同じくそこそこの私立文系大に行くことになっている。奴は俺たち六人の中で、一人だけ指定校推薦という姑息な手段を使って進学を決めているから、俺としては全く面白くない。
しかし俺たちと同じ私立文系組だから、結局五十嵐とは三年間同じクラスという腐れ縁を持つことになってしまった。何とも忌々しい事実である。
それとこれも余談だが、俺の担任は三年間鈴木教諭だった。国語科の教師だし、私立文系狙いの俺たちの担任に持って来いなのは分かるのだが、今年度も半ば強制的にクラス委員長に五十嵐を推薦した点を鑑みるに、やはり鈴木教諭も雑用は五十嵐に任せればOKと考えていたのではなかろうか。
長々と回想してしまった。ラストイブショートホームルームでさえもいつも通り手短に済ませ、教室を後にする鈴木教諭を無意識に見送ると、俺も鞄を片手に立ち上がった。
どれ、久しぶりにちょっくら司馬の0円スマイルでも見に行ってやるか――