メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第3章 Suggestion〜


 望を誘って、理系クラスこと一組の教室に顔を出すと、すぐに司馬の姿を発見した。
「よっす。何だ、初音さんと五月と何の話だ」
 近付いて肩を小突いてやると、司馬がいつもの0円スマイルで振り返った。隣には彼女の初音さん、向かいには同じ理系組の五月が揃っていた。
「やぁ。春崎さんには似合わない夢原じゃないか」
 この期に及んでまだそんな苦言を呈すか、こいつは。こいつのジョークはピントがずれていて笑えん。ほら見ろ、望だって苦笑いしてるじゃないか。
「夢原さん、春崎さん。ご無沙汰しています」
 にこやかにお辞儀してくる初音さんが実に凛々しい。いつもながら育ちの良さを感じる。
 初音さんは専門・就職組だから確か五組のはずだが、司馬に会いに来たのだろうか。
「あら、ちょうどいいじゃん。今卒業祝いの祝賀会の話をしてたところなのよ」
 相変わらず元気な五月である。ボーイッシュなショートヘアが性格を表している。
 で、祝賀会? はて、と俺は望と顔を見合わせた。
「実は俺の友人のご両親が、ちょっとしたカフェを開店することになったんだ。そこで今度の日曜、カスタマー第一号に呼ばれてるんだけど、どうせなら皆もどうかなって」
 司馬の話を聞きながら、こいつの交友関係はいったいどうなってるのかと改めて思った。それなりに長い付き合いの俺でさえ、未だにその全貌を把握出来ない。
「しかも貸切な上にタダでお料理が食べられるのよっ。行くしかないじゃないっ」
 まぁ五月が盛り上がるのも頷ける。で、その祝賀会には何人呼ばれるのかね。
「今のところメンバーはあの時と同じ六人を考えてるんだけどさ」
 俺の関心を見透かしたように司馬が付け加えた。あんまり大人数で行くのも失礼だし、妥当なところか。営業開始早々赤字じゃ、そのご両親も浮かばれないからな。
 しかし懐かしいね。例の遊園地の一件から、既に一年半も経ってるのか。
「五十嵐君にはもう話したの?」
 此処にいない六人のただ一人。遊園地の時は特別ゲストと称された雑用係、五十嵐の心配など全くしていなかったが、望の突っ込みには五月が答えた。
「あぁ、あいつにはあたしが言っとくから」
 五月は今思い出したような口調だが、この二人は何だかんだ言いながら、未だに夫婦漫才の如く交際を続けているらしい。詳しい話は聞いていないが、よく続いてるよな。
「とりあえず皆の意向は参加でいいのかな? 料理の都合で事前に人数は伝えておくことになってるからさ。予定が変わったら早めに俺に連絡して欲しい」
 女性陣三人が頷き、俺が了解、と返事をした。

 適当に談笑した後、腹も減ってきたから解散した。一緒に帰るという司馬と初音さん、部活の後輩たちと約束があるという五月と別れ、望とともに帰路についた。
「いつもはありがたい午前授業も、この時期になるとなんかちょっと寂しいよな」
 少し歩いてから、何気なく話を振ってみた。が、全く返事がない。どうしたのかと横を見ると、望は顎の辺りに指をあてて、何か考え事をしている感じだった。
 歩きながらじっと見つめていると、望はようやく俺の視線に気が付いた。途端に慌てた様子で、何もないところで躓きそうになり、どうにか堪えて立ち止まった。
「っと……ごめん、何だっけ」
 えへへ、という擬音が付きそうな照れ笑い。可愛いな、おい。
「いや、どうかしたのか」
「ううん、何でもないよ」
 望は黒髪を靡かせながら、首を横に振って言った。
「そっか」
 さっきまでの何か含みのある表情は消えている。でも望に最もよく似合う表情ではない。
「よし。今度久しぶりに、二人でどっかに出掛けるか。せっかくの一周年だもんな」
「本当っ? やった、深也大好きっ」
 途端に一等星並の笑顔で、俺の腕に抱き付いてきた。思わず頬が緩む。いやぁ、やっぱり望には笑顔が一番よく似合う。地球が自転しているということ以上に間違いない。
「行きたいとこがあったら言ってくれ」
「うん、考えとくねっ」
 そのまま自宅マンションに着くまでしばらくの間、俺は望の鼻歌を聴くこととなった――


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