メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第5章 Celebration party〜


 卒業式から五日が経っていた。つまり今日は祝賀会当日である。
 俺は今望とともに電車に乗っている。最寄り駅前から出発し、二駅先で有楽町線に乗り換え、更に九つ先の駅が目的駅だ。そこから十分ほど歩いたところに、司馬の友人のカフェがあるらしい。俺の家からだと約一時間くらいだろうか。ずっとチャリ通だった俺には少し長く感じる。
 俺は通り過ぎていく景色を見るともなく眺めながら、卒業式を回想した。
 あの後、望がお母さんと話していることに気付いたので、礼儀を重んじる俺はもちろん挨拶した。するとお母さんの提案で、最後の制服姿だからということで、望と二人で記念撮影をすることになってしまい、考えてみると望とツーショットを撮る機会はほとんどなかった。改まると何とも気恥ずかしい。
 まぁその他の点では無事に済んだので良しとしよう。空気を読んで望とは教室で別れ、俺は司馬に野次の一つでも入れてやろうと一組の教室に足を運んだ。
 そこで今日の祝賀会の予定を詳しく聞いたというわけなのだが――
「何考えてるの?」
 不意に隣に座っている望が声をかけてきた。今日はセミロングの黒髪を横向きに一つに纏めており、つまりポニーテールのような感じにしている。
「いや。さすがにこの時間だと空いてるな」
 小首を傾げたまま、真っ直ぐ見つめてくる望の純心無垢な瞳に心を奪われそうになりつつ、俺は平常心を装って別の話題を持ち出した。
「あぁ、そうだね。座れてよかったよねっ」
 ちなみに現在時刻は午前十一時を回った頃である。十二時ちょうどから祝賀会を開始することになっているので、時間的には十分に余裕がある。

 目的駅に到着し、改札を出ると司馬が待っていた。
「やぁ。夢原にしては早かったじゃないか」
 いつもながらラフな中にも紳士的な出立ちである。今日は全身白を基調にしつつ、ご丁寧に真紅のネクタイを締めていた。何だ、愛国心の表れか?
「遅刻したんじゃお前の友達のご両親に申し訳ないからな」
 わざわざタダでご馳走を用意して待ってくれているわけだし、慣れた場所ならともかく、初めて行く場所には俺だって早めに来るくらいのことはするぜ。
「司馬君、待っててくれたの? ごめんね、それならもっと早く来たのに」
 花柄のワンピースに白のカーディガンを羽織った望が、申し訳なさそうに言った。
「やぁ、春崎さん。心遣いありがとう。でも案内役は俺の務めさ」
 気障なヤツ。望も気にしなくていいんだ、こいつはお節介が好きなのさ。
「それよりお前、初音さんはどうした」
「彼女ならもうレストランにいるよ」
 一緒に来たのか。つーか、野郎にウインクされても気色が悪いっての。
 先頭切って歩き出した司馬の後に続くこと十分弱。司馬が目的のカフェを指で示した。その方角の先、敷地はそれほど広くないが、準和風的雰囲気を醸し出している店があった。趣き深いのは確かだが、新装開店するにしてはいやに周囲に溶け込んでいて、イメージしていた店とはまるで違う。
 俺が眉を寄せているのを目敏く見つけたらしく、司馬が補足してくれた。
「元々知人の老夫婦が経営していたらしいんだ」
 それを譲ってもらったのか。道理でどこか老舗に感じたわけだ。

 引き戸に手を掛け力を加えると、簡単に横にスライドした。
 店内に足を踏み入れると、まず落ち着いたBGMが聞こえてきた。調度品はほとんどなく、木彫りのテーブルと椅子が綺麗に並べられているだけだった。殺風景と言えば殺風景だが、窓が多いから明るい。しかもその窓枠が三角形になっていて、いい意味でユーモラスなアクセントになっている。
 とりあえず店主であるご両親に挨拶した方がいいかな、などと考えていると、店内唯一の調度品である大きな観葉植物の陰から、いきなり若い男が現れた。いかにも司馬のブラックバージョン、艶のある漆黒の衣装に身を包んでいる。一目で高そうな服だということ、そして――
 俺はこいつとは仲良くなれない、ということが分かった。
 何故ならそいつは俺には目もくれず、スッと望の前に立つと、黙ってその右手を握ったからだ。そのまましゃがむように床に膝をつけると、何の躊躇いもなくその手に口付けやがった。
 お姫様に傅く忠臣さながらの姿勢を維持し、野郎はこんな風に付け加えた。
「初めまして、桜木祐一です。以後お見知りおきを」


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