メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第8章 Recreation〜


 司馬が五月と五十嵐を連れて戻ってきたのは、およそ三十分後のことだった。
 何より特筆すべきは、桜木が五月にも自称俺流作法をやったということで、しかし当の五月は驚いたのか照れ隠しなのか、「何するのよっ」 とか喚きながら、回し蹴りを決めてしまった。床に尻餅を付き、ぽかんと口を開けた桜木の顔と言ったらなかったね。正直に言うと、自業自得である。
 五月が落ち着きを取り戻した後、司馬が改めて桜木&九条さん、五月&五十嵐の両コンビをそれぞれに紹介し、予定より少し遅れてしまったものの祝賀会が始まった。
 今まで厨房に篭って料理を作っていてくださった桜木のご両親も奥の方から出ていらして、わざわざご挨拶までしてくださった。どっかの無礼な息子とは大違いだ。
 挨拶もそこそこに、テーブル二つをくっつけて、そこに所狭しと料理が並べられる。
 和洋折衷というか良いとこ取りというか、ともかく見た目からして完璧な御節を始め、サンドイッチ、ローストチキンにポテトフライ、新鮮野菜特盛りサラダ、ハンバーグ、カルボナーラ、おまけにサーモンの白ワイン煮まで出てきた。しかもデザートの用意もあるというから非の打ち所がない。
「こんなもので申し訳ないけど、お口に合えば作った甲斐があるよ」
 とのたまう桜木の親父さんには頭が上がらない。本当に元商社マンですか?

「そういえばお前、合格発表は? 確か今日だっただろ」
 各々がバイキング形式で好きなように食べ始めてから束の間、一応正装のつもりなのか、チェックのシャツに蝶ネクタイなんかをしてきた五十嵐が思い出したように呟いた。
 しまった、今日だったか。桜木のせいで、すっかり記憶から抜け落ちていた。
「あぁ、此処に来る時に携帯で確認したら受かってた」
 司馬は何でもないことのように、サンドイッチを頬張りながら言った。
「お前それを先に言えよっ」
 俺はカルボナーラを食べる手を止めて応酬してやった。
「だって自分から受かりました、って言うのも感じ悪いだろう」
 司馬は同意を求めるように初音さんを見た。
「でも皆さん心配してくださっていたし、すぐにお話すべきだったかも……」
 此処まで一緒に来たらしいし、結果発表も初音さんと一緒に見たのだろうか。ちっ、肝心なことはいつも秘密にしやがって。ほら見ろ、初音さんの方が正しい。
 しかしまぁ女性陣が口々に祝いの言葉を述べるので、ともかく俺も労いを入れてやった。幾分照れていたようだが、司馬の0円スマイルは相変わらず健在だった。
「でも本当に良かったな。万一ダメだったら今日は祝賀会どころじゃない」
 桜木が余計なちゃちを入れたため、すぐさま九条さんが睨んだ。
 言ってることはあながち間違っていないような気もするが、こいつが言うことには素直に賛成したくない。九条さんが悪くてもこいつには味方しないだろうな。

 腹いっぱいごちそうを満喫した後は、五十嵐と五月の夫婦漫才(尤も二人にその気はないだろうが)に笑い転げたり、例の文化祭ぶりに初音さんの美声を拝聴したり、司馬のトランプマジックを見て、せっかくトランプがあるならってことで七ならべや大富豪、ババ抜きを一頻り楽しんだら夕方になっていた。
 しかし初音さんの歌声は何度聴いても惚れ惚れする。そういえば九条さんと桜木は、初音さんの歌声を聴いたことはあるんだろうか。司馬と付き合いがあるなら、初音さんの歌声を聴いたことがあっても不思議ではない。聞いたからといって別に意味はないが、今度確かめておこう。
 ただ、一番負けの込んだ俺が罰ゲームとして一発芸を強要され、挙句に場を凍らせたことは出来れば記憶から抹消したい。つくづく芸人に向いていない、いやそれ以前に俺に人を笑わせるセンスがないのだということを痛感した。九条さんが笑ってくれなかったら危うく首を吊っていたところだ。
 くそ、提案しやがった司馬と五十嵐は一生恨んでやる。
 まぁ、何だかんだ言って楽しかったけどさ。少なくとももう少しこうしていたい、と思うくらいには――


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