メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第9章 Movie theater〜


 卒業生の特権として普段より少し長めの春休みも半ばを過ぎていた。
 今日は望と二人で出掛けることになっている。例の正式交際一周年記念の振り替えというわけだ。
 望の要望で隣駅まで映画を見に行くことに決まったため、今やすっかり待ち合わせ場所として定着した最寄駅の広場で、俺はぼけっと望の到着を待っている。
 どうして向かいのマンションに住んでいながら、いつも最寄駅で落ち合っているのかと問われれば、敏感に春の訪れを感じて芽吹く桜の如き習性だ、としか答えようがない。
 そういえばこの辺の桜ももう一、二週間の間に見頃を迎える頃合だろうな、などと考えるでもなく考えていると、向こうから望が小走りに駆けて来るのが見えた。
「ごめんねっ、待った?」
「いや」
 上は薄桃色のフリルシャツに白のスプリングコート、下は丈の長いデニムスカートだ。セミロングの黒髪は結わずに流している。やっぱり結わない方がいいな、俺の好みでは。
「何か変かな?」
 俺が食い入るように見入っていたからか、望がやや眉を顰めて聞いてくる。
「いや、エクセレント」
「ありがとっ」
 親指を立てて言ってやると、望の表情がぱっと華やいだ。こっちまで頬が緩む。

 程無く二人で電車に乗ると、数分で隣駅に到着した。この辺りはホテル街やテーマパークが立ち並ぶ、県内有数のレジャースポットだ。その建物の一つが映画館というわけである。
 休日は大勢の人で賑わうが、今日は春休みとは言え平日だから、いつになく空いていた。
「二人で此処に来るのって初めてだよね?」
 言われてみれば確かにその通りだ。俺も此処に引っ越してきた当時は珍しがって、それこそ家族で何度も訪れたもんだが、望と二人で来たのは初めてだった。
 近くにレジャー施設があると、いつでも行けるからついつい後回しにしがちで、案外行かないもんなんだよな。灯台下暗しっていうのは実に的確な慣用句だぜ。
 駅からの連絡通路、と言っても歩道橋のようなものだが、そこを数分歩いたところに映画館があった。次の回は午前10時半、腕時計に目を落とすとあと十分弱で始まる。
 ざっと上映中の映画を見てみるが、既に見るものは決まっていた。先日封切になったばかりの刑事もののアクション映画だ。早速二人分のチケットを購入して中に入った。
 館内は都心の映画館に比べれば広いとは言えないが、人の入りが疎らだから大して気にならない。最後尾のど真ん中という格好の見物席を確保し、映画が始まるのを待つ。

「なぁ、どうしてこの映画が見たかったんだ?」
 特に異議があるわけではないが、何となく気になって聞いてみた。
「だって、命を掛けて誰かを守るって凄いことじゃないっ。SPの一人は女性なんだけど、男の人に負けないくらい格好いいんだから。シリーズ最終章だし、絶対見たいなって思ってたんだ」
 正直俺は少し面食らっていた。こんなに饒舌な望は久しぶりに見た。そんなにアクション系が好きだったっけ。まぁ俺も特番でやってると、つい見入って風呂のタイミングを逃すくらいには好きだけどな。
「そっか。まぁ望が喜んでくれるんなら何でもいいけどさ」
「ありがとっ」
 俺が気取ったことを言った直後にブザーが鳴った。その音と重なり、望の声は聞き取りづらかったが、その笑顔が言いたいことを十分に物語っている。続いて静かに館内の照明が落とされた。
 望と顔を見合わせ、同時に前を向いた。派手な音楽とともに、大画面に光が灯った――


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