結論から言うと、映画は実に見応えがあって、足を運んだ甲斐があった。
シリーズ最終章と銘打つだけあり、常に手に汗握らされて気が抜けなかった。特に主人公と黒幕が銃を構えた状態で睨み合う最後のシーンは、瞬きするのも惜しいくらいだったしな。
しかしながら別の意味で気が抜けない時もあった。無意識なのかどうかは分からないが、顔は前を向いていたから多分無意識の行動なんだろう。望が急に手を握ってくるからだ。
俺だって映画に集中してるから、突然手を握られればびっくりするさ。しかも結構力を込めてくるし。おかげで望の横顔とスクリーンの両方に意識を向けていて、何だか忙しかった。
「あー、面白かったねっ」
館内を出て、伸びをしながら望が発した第一声がそれだった。
「ああ、また二人で来ような」
「うんっ」
望は大きく頷き、今度は意識的に手を握ってきた。幸せってこういうことを言うんだろうな。
映画を見終わるとちょうど昼時になっていたので、隣接する建物に移動し、そこのレストランで昼食を取ることにした。此処の料理は文句なしに抜群だ。少々値が張るのが玉に瑕だが。
「二人で」
「はい。こちらへどうぞ」
店員に案内された先は窓際のテーブル席だった。晴れた日には此処から東京湾を一望出来るのが特長で、空のスカイブルーと海のディープブルーが見事に調和した様が見られる場所は、そうそう多くはないはずだ。まぁいくら立派なパノラマでも腹は膨れないから、今は飯の方が優先だけどな。
「望は何頼む?」
メニューをじっくり吟味する望に声を掛けた。
「うーん、そうだなぁ……じゃあ、これにしようかな」
指差しているのはオムライスか。ちなみに俺はビーフカレーに決めていた。店員さんを呼んで注文し、料理が来るまでさっきの映画の感想を言い合った。主に望が。聞き役の方が楽だしな。
30分くらいで料理が来た。俺がガキの時の記憶通り、味は最高だ。若干味が甘くなった気がするのは俺の舌も成長したってことかな。しかし柔らかい肉にまろやかなルー、たまらんね。
「うわぁ、卵がふわふわ。口当たりのいいソースと絡んで、凄く美味しいよっ」
そう説明してくれた望も頬が落ちそうになって食べていた。
腹がいっぱいになって少し寛いでいると、まもなく午後二時だった。
映画のチケット代を出してくれたから此処は私が奢る、と聞く耳を持たない望に根負けした格好で会計を任せた俺は、一足先にレストランを出ていた。
「おまたせっ」
この後の予定を思案していたところ、ちょうど望が追い付いてきた。
「悪かったな。ごちそうさん」
「いいよ、いつも奢ってもらってるのは私なんだから」
「そうか? ところでこの後なんだが、ちょっと向こうを散歩しないか?」
「お散歩? 別にいいけど」
どうして散歩? と言いたそうな顔だったが、俺はあえて何も言わずに歩き始めた。
舗装された歩道を抜け、交差点のない車道を進み、砂利の敷き詰められた道を越える。駅から15分ほど歩いただろうか、ある大きな土手に辿り着いた。
「ちょっと急な坂だけど、この先だ」
次第に不安そうな表情になりつつあった望を振り返り、俺は手を差し伸べた。30度くらいありそうな急斜面だ、女の子にはキツい。望はおっかなびっくり手を握ってきた。
斜面に生える草を一歩ずつ踏み締め、ようやく土手の頂上に降り立った。
「あっ……」
望が思わず驚きの声を上げる。
なぜなら、目の前に広大な海が広がっていたから。
「何年か前に此処に来た時に、親父が教えてくれたんだ」
それは誰にも知られていない、俺たちだけの特等席。
「綺麗……」
そう呟く望の肩に腕を回し、そっと引き寄せる。
徐々に西に傾きつつある太陽の光が、青い海に反射して白く輝いていた――