メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第12章 University life〜


 入学式から九日が経っていた。
 春眠暁を覚えず。気の向くまま流れるまま、まったりと過ごした春休みはまさにあっという間で、あれよあれよという間に入学式の日が来て、そして過ぎて行った。
 入学式はそれこそ巣に帰る働きアリの如く、降りた駅から会場の某武道館まで目を疑うほどの長い行列が出来ており、おかげで中に入るだけで一苦労だった。
 そんな状況下じゃ望や九条さんを見つけることが出来るわけもなく、かと言ってほいさっさと新しい友人を作ろうと思えるほど俺のテンションは上がらない。せっかく朝っぱらから満員電車に耐えてスーツまで着てったのに、その目的が堅っ苦しい式辞なんだから、気持ちは分かってくれるよな?
 ちなみに大学の校舎はもう一つ先の駅にあるが、収容人数の都合上、毎年この武道館で入学式・卒業式を行っているらしい。こんな経験は二度とごめんだけどな。
 んで、最早単独の休日に成り下がった日曜日を挿んで、先週はオリエンテーションや履修ガイダンス、健康診断等々の事務的なイベントが待ち構えていた。それらのイベントは全て学部毎に行われるから望と行動を共にすることが出来ず、俺としては実に遣る瀬無い一週間だった。

 前置きが長くなったが、要するに今日から授業開始である。
 自分で時間割を組むのは一見自由で簡単そうだが、やってみるとこれが意外と悩ましい。
 指定された必修科目は仕方ないにしても、出来るだけ朝の授業は取りたくないし、集中力を考えると一日三時間以内にしたいし、週二日は休みたいし、共通科目は望と同じ授業を取りたい。そういった希望をなるたけ叶えつつ、履修上限の四十二単位に設定しなければならない。
 望とメールで連絡を取りながら、悩みに悩んでようやく完成したマイ時間割にちょっとした感動を覚えつつ、履修登録を済ませたのがつい三日前のことだ。
 授業初日の俺の時間割は、二限目に必修の政治学、三限目に望と同じ情報処理。望の細かい時間割は知らないが、一緒になるのは月曜と木曜の二時間だけだ。校内で顔を合わせる時間は高校の時に比べれば格段に少なくなっている。特に月曜は昼も一緒になるからな、有効活用しないと。
 ところで、高校までチャリ通だった俺は初めての電車通学ということになるわけで、実は多かれ少なかれ不安を覚えていたんだが、一週間もすると大分慣れるもんだ。
 いかん、話し出すと限がない。俺ってこんなに回想魔だったっけ?
 きっとこの政治学の講義がつまらな過ぎるのがいけないんだ。そういうことにしておこう。

 今後の予定や授業の概要を一通り聞き終えると、初回だからかあっさりと解散になった。
 俺は意気揚々と教室を出て、ついでに校舎も後にすると、二つの校舎に挟まれた広場に出る。数年前に改築されたばかりだというのも納得の造りで、此処だけが妙に西洋風にアレンジされていた。真ん中には大きな噴水があって、四方には何を象ったのかよく分からないオブジェが立っている。
 ちょっと考えて、噴水の向かい側に置かれている木彫りのベンチに腰を下ろした。
 腕時計に目を落とすと十二時十分。本来の授業終了は十二時半だから、その時間に望と待ち合わせることにしたわけだが、こんなことなら早めにすればよかったかな。
 どうしたもんかと、頭の後ろで手を組み、だらしなく足を伸ばした時だった。
「あれ? 夢原君じゃない?」
 俺が出てきた第一校舎の向かい、第二校舎から颯爽と現れた九条さんは、目敏く俺に気付いた。
「あぁ、奇遇ですね。お久しぶりです」
 ひと月ぶりに会った彼女は白いブラウスにジージャン、ショートパンツというラフな格好をしている。
 白く長い足が剥き出しで、正直目のやり場に困るわけですよ。
「久しぶりね。こんなとこでどうしたの?」
 あなたを待っていたんです、なんて軽いジョークが喉元から出掛かったが、軽い奴だと思われるのは不本意なのでやめた。俺の嫌いな人種に自分がなってどうするんだ、アホ――


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