メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第13章 Shade of heart〜


「実は望と待ち合わせてまして」
「そっかぁ。相変わらず仲が良くて羨ましいなぁ」
 九条さんの口調には揶揄するような響きは含まれていない。どちらかといえば本当に羨ましがっているように聞こえる。そういや祝賀会の時もそんな感じだったっけ。
「いや、そんなことは……九条さんこそどうなんですか」
 これだけの容姿なら男が放っておかないと思うんだけどな。
「それが全く縁がないのよ。高飛車なところが出ちゃってるのかもね」
 九条さんは両手を広げて、大袈裟に肩を竦めた。
「俺にはそんな風には見えませんよ。寧ろ美人過ぎて近寄りがたいのかも」
 言ってからちょっと後悔した。まだそんなに親しいわけでもないのに軽くなかったか?
「そう? ありがと、お世辞でも嬉しいっ」
 俺の逡巡をよそに、九条さんは目を細めて笑顔で返してくれた。
「あっ、ほら。望ちゃん来たよっ」
「深也、早かったんだね」
 曖昧な笑みを湛えた望が近付いてきた。
「あぁ、講義がちょっと早く終わったんだ」
「そうなんだ。九条さん、お久しぶりです」
 軽く頭を下げる望に対し、九条さんはあっけらかんとした様子で言う。
「久しぶりっ。講義が終わって出てきたら、偶然彼を見かけたから。これからお昼なんでしょう?」
「ええ……あの、九条さんも?」
「あー、うん。でもあたしは祐一を待たせてるんだ」
 九条さんは珍しく、一瞬歯切れが悪くなった。もしかしたら俺たちに気を使ったんだろうか。
 それにしても九条さんと桜木の関係はどうなっているんだろう。付き合っているというわけではないようだが、知らない奴が二人を見たら誤解する奴の方が多いような気がする。
「それじゃ、またね」
 俺たちの返事も待たず、九条さんはあっさりと背を向けた。相変わらずマイペースな人だ。
「じゃ、食堂行くかっ」
 後に残されたのは何となく微妙な空気だった。そんな空気を振り払おうと思い、ベンチから勢い良く立ち上がってはみたものの、望の視線がちょっと痛い。どうしてこうなった!

 学食に行ってみるともちろん混んではいたが、どうにか席を確保できるくらいのレベルだった。校内には食堂が三つあるし、コンビニもあるからそれなりに分散しているらしい。
 俺は唐揚げ丼、望は天ぷらうどんを買って席に座った。
「席、空いててよかったな」
「うん……」
 盛り上がらない。望は俯いたままで、割り箸を割ろうともしない。
「うどん、伸びちゃうぞ」
「うん……」
 顔の前で手を振ってみるが反応がない。ただの屍のようだ。……じゃない、どうしたんだ。
「九条さんのこと、気にしてるのか。本当にたまたま会っただけだよ」
「そうじゃなくて……ごめんね、ちょっと頭痛がしてるの」
 反応があった。頭痛? 今まで望と一緒にいて、そんなことは一度も聞いたことがなかった。
「大丈夫なのか。あんまり無理しない方がいいぞ」
「ううん、平気。そんなに酷くはないから」
 望はそう言って弱々しい笑顔を作ると、両手で割り箸を割った。
「そうか。無理そうだったら言ってくれ」
 望が頷くのを確認し、俺も箸を持ち直して丼を手に取る。その時、望がテーブルに置いた白い携帯が目に入った。いや、正確には携帯に付いているストラップが目に入った。
 この間一緒に出掛けた帰りに、土産物屋で買ったものだ。お揃いの物を持ちたいと望にせがまれて、根負けした俺は生まれて此の方一度もつけたことがなかった携帯に、初めてストラップを付けることになった。俺の持っている物と同じ透明のイルカが、こっちを向いて揺れていた――


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