五月に入っていた。世間はゴールデンウィーク一色で、短い休みだというのに旅行者が後を絶たないらしく、テレビでは頻りにUターンラッシュの情報が飛び交っている。
この辺りでも季節は確実に移り変わっているようで、先月上旬に満開を迎えていた桜の木々も、気が付いたらあっという間に新緑の落葉樹に衣更えしてしまっていた。
で、俺はと言えば何処に行くでもなく、いつも通り家でまったりしているわけだが、今年は例年とは異なる点が一つだけあった。この連休から教習所に通い始めたのだ。
三月は色々とやることもあったし、免許を取るという考えは全く頭になかったのだが、やっぱり運転できたら便利だし、助手席に望を乗せてドライブするのも悪くない。
まぁ実のところ、司馬への対抗心も免許を取ろうと思い立った原因の一つだった。
一緒にスーツを買いに行ってからしばらく連絡がないなと思っていたら、先週いきなり
『やぁ、久しぶり。実は昨日付けで免許を取ったんだ。夢原は取らないのか?』
とかぬかしたことを言ってきやがったからな。というか、俺と一緒にスーツを買いに行ったり、祝賀会の手配をしたり、そもそも奴は国立だから俺たちより大学の準備も遅れていて、春休みだって何かと忙しかったはずなのに、いつの間に免許なんか取っていたんだろうか。
そんなわけで今日も今日とて、俺は教習所の送迎バスに乗っている。
最寄の教習所が隣の市にしかないというのが残念だが、この教習所は隣接する市のために無料送迎バスを用意しているので、気軽に行けるというメリットがある。
二十分程度バスに揺られて教習所に到着し、受付で配車手続きをしようと列に並んでいると、
「おっ、夢原じゃねーか?」
横から馴れ馴れしく声を掛けてくる野郎がいた。
さすがの俺もこんなところで会うとは思っていなかったから、すぐに反応が出来なかった。
「……なんでお前が此処にいるんだ?」
「なんでって、そりゃ免許取るために決まってるだろ」
そう答えたのは腐れ縁と言えばこの男、五月のパシリこと五十嵐だった。
「お前も此処の教習所だったのか」
受付を済ませた後、入り口の横に設置されている椅子に座り、会話を再開した。
「まぁな。でももうすぐ卒業だぜ。俺はこれから二段階のみきわめなんだ。そっちは?」
となると、あとは卒業検定だけか。クソ、こいつに先を越されていたなんて失態だ。
「俺はまだ始めたばっか。お前はいつから始めたんだ」
「ふぅん。俺は春休み入ってすぐ。卒業式の翌日に入所したから」
はやっ。まぁこいつは秋には大学が決まってたからな。忌々しい。
「そうなのか。司馬といいお前といい、皆やることが早いんだな」
「当たり前だろ。やっと免許が取れるってのに、すぐに始めないでどうするよ」
意外に感じていた俺とは逆に、五十嵐は呆れたように言ってきた。
「免許を取っても、大方五月の足になるだけだと思うが」
何となく上から目線で言ってくるのがムカついたから、そう言ってやった。
「それなら問題ない。あいつもそろそろ二段階の教習が終わるはずだ」
なん……だと……。司馬や五十嵐だけでなく、五月までそんなに進んでたのか。
「……きっとお前の運転じゃ心配なんだろ」
そう皮肉を言うのがやっとだった。何だろう、この気分。上手く表現できないが、ちょっとしたカルチャーショックみたいなもんかね。俺だけが取り残されたような気分だよ。
五十嵐はまだ何か喋りたそうだったが、授業開始のチャイムが鳴り、担当教官が俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきたので、俺は肩の鞄を掛け直し、元級友に別れを告げた――