メモリアルリミット 〜Limit of memories〜

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〜第27章 Ring of the oath(1/2)〜


 望の誕生日当日はお見舞いに行ってやるべきなのかどうか至極悩んだものの、いくら幼馴染とはいえ寝込みに訪問するのは迷惑のような気がしたので、結局メールを送るにとどめた。
 望からの返信は比較的早く、誕生日の予定をキャンセルしたことをひたすら詫びていた。確かにレストランの予約をキャンセルするという労はあったが、それは望の元気な笑顔を見れば一発で吹っ飛ぶこと台風の如く程度の労であり、そんなもんは労とは言わない。ノープロブレム。
 そんなわけで彼女がいるにもかかわらず侘しいクリスマスを過ごす羽目になった俺は、試験勉強に精を出す気にもならないまま年の瀬を迎えるに至り、何だかんだで今年もあっという間だったなという感慨に耽りつつ、己の成長のなさに愕然としていたところ、望から電話があった。
 理由は単純で一緒に初詣に行こう、という誘いだった。他に先約はないし、あったとしても望の誘いを無下に断る理由などこの世の何処を探してもあるはずがなく、俺は二つ返事で了承した。
 約束の時間まで暇潰しに紅白歌合戦を見るともなしに見たり、晩飯代わりの年越し蕎麦を食ったりしてうだうだしているうちにいい時間になり、か弱い娘ならともかく大学生の野郎だってのに夜間の外出を心配する母親を適当に宥めて準備を済ませると、俺は足早に家を出た。
 時間が時間なだけに、車を出すことにした俺は運転席に乗り込み腕時計を確認し、車を発進させた。とは言っても待ち合わせ場所は望のマンションの下で、知っての通り望のマンションは俺のマンションの向かい側にある。おそらく走行距離は二百メートルもなかっただろう。
 マンション前の道にしばし路駐させていただき、そういやこんな時間に望と二人でどっかに行くのは初めてだな、なんてことを考えた。去年の今頃は受験でそれどころじゃなかったし。

 車の窓をノックする音が聞こえたのは、約束の午後十一時を五分ほど過ぎた頃だった。窓越しに望の微笑みが見えてやたらに安心するのは、やっぱり夜に一人で車の中にいたからか。
「待たせちゃってごめんね。お母さん心配性だから……もう子供じゃないんだけど」
 ドアを開けて助手席に乗り込みながら、望は不満そうに口を開く。どこの家庭も似たようなものらしい。
「いや、全然。それより体調はもう平気なのか?」
「あぁ、うん。もうすっかり元気だよ」
 ウインク付きVサインで健康をアピールしてくる。暗くてよく見えなかったのが悔やまれる。
「そうか。ならよかった。じゃあ早速行くかっ」
「うんっ」
 望の喜ぶ顔を視界の端で捉えながら、ハンドブレーキを下ろしてアクセルを踏み込んだ。
 行き先は車で20分ほどのところにある市内のお寺だ。本来なら明治神宮とか浅草寺辺りの有名な場所でお参りして、ついでに東京タワーに寄るくらいはしたかったのだが、いかんせん免許を取って四ヶ月にも満たない初心者ドライバーである。市外に出たことも数えるほどしかないし、こんな時間に一人娘を連れ回すけしからん輩だと望のご両親に思われるのは本意ではないので、そこは妥協だ。
「そういえば深也の運転、久しぶりだねっ」
 しばらくして大通り沿いの交差点で信号を待っていると、望が話しかけてきた。
「そうだな。これでやっと二回目だったかな」
 先月の連休に望を誘って、軽く市内ドライブに出掛けたのが一回目だ。自分の運転に自信がないわけではないのだが、そう言われてみると、まだほとんど一緒にドライブには行ってないな。
「もっと乗せてよー。深也の運転なら安心だしっ」
「あんまり買い被るなよ。なんてったってまだまだ初心者ドライバーだからさ」
 俺は照れ隠しに暖房を弱めながら言った。面と向かって言われるとむず痒い。
「謙遜しなくてもいいよ。うちのお父さんより上手いよ、きっと」
 それは畏れ多いから親父さんの前では言わないでくれよ。いや、嬉しいけど。
「望は免許取らないのか?」
「うーん。春休みになったら取ってもいいけど、運転席より助手席の方がいいかな」
 上目遣いに俺を見上げている気配がする。安全のために直視するのはやめておこう。

 そんな風にとりとめのない話をしながらのドライブは、文字通りあっという間だった。
 境内の裏手にある駐車場に車をとめた後はカーナビのワンセグ放送をNHKに合わせ、年が明けるまで除夜の鐘に耳を傾けつつ望と談笑するという、小さな幸せを感じられるひと時を過ごした。
 そしてその鐘が百八つ目の鐘を鳴らし終えた時、俺たちは静かに顔を見合わせた。
「明けましておめでとう。不束者ですが、本年もよろしくお願いします」
 広くない車内で、望はペコリと頭を下げてきた。
「明けましておめでとう。こちらこそ、今年だけじゃなくて……これからもずっと、さ」
 言ってて自分でも恥ずかしくなるが、新年初っ端くらいは見逃してやって欲しいね。
「もうっ。これ以上好きにさせてどうするの……?」
 耳まで真っ赤になって目を逸らす望がひたすら愛おしい。正直、どうにかなりそうだ。
 まぁ、ヘタレ日本代表を自負している俺が、望に何か出来るはずないんだけどさ――


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