「うわぁ。結構混んでるんだね?」
駐車場側にある入り口から石段を上がって来たら、思っていたよりたくさんの人で賑わっていた。俺たちと同年代くらいの人もチラホラいるが、家族連れや年配の人の方が多いようだ。
此処で働いている人たちにとってはそう多くない稼ぎ時――と言ったら語弊があるかもしれないが――だろうから良いとして、神様は神聖なお寺が賑わうのはどういう気分なんだろうね。
「小さなお寺だけど、この辺の人は此処でお参りする人が多いのかな」
「みたいだな。逸れないように手、繋いどくか」
独り言のように呟く望と視線を合わせず、俺は何気ない風を装ってその手を取った。
「あっ……う、うん」
望の声は尻すぼみだったが、左手に感じる温かい手のひらが心地良い。
司馬がこの場にいたら、付き合ってもう二年弱にもなるのにまだ手を繋ぐだけで照れてるのかい、とか言われて失笑されそうだ。別に良いだろ、俺は望のそういうところが好きなんだから。
「な、何笑ってるのっ」
月明かりの下でも分かるくらいに頬を赤くした望が、非難めいた口調で肘を突いて来た。
「いや。望がいてくれて良かったなってさ」
「そ、そんなこと言われたら、照れちゃうじゃん」
もう照れてるだろ。単に寒いから頬を赤くしているわけじゃないだろう?――なんてことは言わない。言葉は大事だが、心が通じ合ってるって感覚がある時は、蛇足に過ぎないのさ。
頬が勝手に緩むのは許してくれ。望のじとっとした上目遣いの前には誰でもこうなるさ。
その後、二人してお賽銭を済ませて――その時はさすがに手を離した――望とずっといられますように、などと神様に虫のいいお祈りをした。望になんて願い事をしたのか聞いてみたが、「内緒っ」の一点張りで、肝心の内容は教えてもらえなかった。めちゃくちゃ気になる。
お賽銭の次はせっかくお寺まで足を運んだことだし、一年の運勢を占う意味でもクジを引いてみようということになった。結果だけ言えば望は中吉で、俺は末吉だった。ま、こんなもんさ。
特に恋愛運が悪く、小さな幸せに感謝して生きろとか、悲しい出来事に直面しても前を向いて、とか書いてあったが細かいことはいい。根本的に占いとかの類は信じちゃいないんでね。
お賽銭もクジも終えてしまうと取り立ててすべきことはなくなり、しばらくお寺の周りをぶらぶらしてから駐車場に戻った。深夜の一時。夜も更けてきたし、そろそろ帰った方がいいかな。
が、しかし。その前に俺には一つだけやっておかなければならないことがあった。
凍て付く外気に呼応するかのように冷え切った車内に、火を灯すかの如くエンジンを入れて暖房をつける。シートベルトを締める代わりに、俺は密かに深呼吸をして息を整えた。
「どうかしたの?」
俺が車を出す気配がないことを怪訝に感じたのか、望が眉を顰めて聞いてきた。
「実は渡したい物があるんだ」
そう言って、俺はジャケットの内ポケットから綺麗に包装された四角い小箱を取り出した。
「ほんとは誕生日に渡すつもりだったんだけど……受け取って欲しい」
俺の真面目な口調に気圧されたのか、おずおずと差し出された望の手に小箱を置いた。
「開けていいの?」
俺が頷くのを確認し、望はそっと包みを開く。
「これ、オルゴール?」
そう。女の子なら誰でも、というのは誇張が過ぎるだろうが、一度は憧れるであろう某夢のテーマパークに隣接するホテルで買ってきたオルゴールだ。曲は小さな世界。そして中には――
「あっ……」
蓋を開けて言葉を失った望が中から取り出したのは、シルバーのリング。
「今は安物しか買えないけど。望、これからもずっと、俺の側にいてくれるか?」
「深也……私、すごく嬉しいのに、なんて……言ったら、いい……のか……」
声を詰まらせる望の大きな瞳に、じわりと涙がたまっていく。バカだな、泣くやつがあるか。
「だって……すごく、嬉しいんだよ……」
俺は頭を撫でてやってから指輪を手に取り、そっと望の左手薬指に通した。
「わたし……ずっと深也の側に、いるからね……」
顔をくしゃくしゃにして泣き笑いを浮かべる望を、俺は狭い車内で静かに抱き締めた――